手紙



この世で鬼太郎として生きている以上、他の鬼太郎がいたらその存在を詳しく知る必要がある
そう思った2人は、やや牽制気味な手紙のやり取りをして、やっと会う事にした

「君が沢城くんだね、はじめまして。僕は高山です」
「はじめまして…沢城です」

鬼太郎達の最初の挨拶は変な緊張感があり、交わす言葉は少なかった
時刻は夕方、そのわりには日差しが強い
2人は待ち合わせ場所の鳥居前から木陰が生茂る境内の中へと歩みを進めた
由緒ある神社なのであろうか
古木が古い街頭をも飲み込んで成長している
複雑に絡み合った枝は、これまでの人々の交わりを現しているかのように、先に行く程細く伸びていた
その上を元気に飛び交っている野生のリスはそんなことなど知る由もない

ガザ バキバキ!!!

「危ない!!」
「えっ…」

ガシャーン!!!!

2人があの古い街頭の真下に差し掛かった時、錆び付いて脆かった箇所が大きな音を出しながら落下してきた
咄嗟に反応した高山は落下物を避けようと沢城を垣根に突き飛ばし、自身も草むらへと逃げ込んだ

「沢城くん大丈夫?怪我してない?いっ…」
「足?っ!どうして僕を守った」
「どうしてって…君を助けたかったから」
「僕は頼んでないし、自分で避けれる」
「そうだね…君からは頼まれてなかったね…いてて」

高山は逃げ込んだ際の着地に失敗し、右足首を捻挫してしまった

「…大丈夫か?」
「大丈夫…ただの捻挫だっておおお!?」
「よいしょっと…」
「沢城くん大丈夫だよ!1人で歩けるから降ろしてよ」
「…」
「沢城くん…」
「…よいしょっと…」

沢城は高山を軽々とおぶり、下駄の音が良く響く境内へと足を進めた

カランコロンカランコロン

「高山先輩…」
「確かに先輩かもしれないけど、その呼び方は好きじゃないな」
「じゃ、なんて呼んだら」
「名前でいいよ」
「高山…さん…」
「…ふふっ」
「何か可笑しいですか?」
「沢城くんがさん付けで呼んでくれるなんて嬉しくてさ」
「…」

高山にとって初めての後輩・沢城
どんな目上に対しても敬語を使わないあの沢城が、高山相手に敬語を使う
この状況は笑うしかない

「この神社の裏の森から僕らのゲゲゲの森に行けます」
「そうなんだ。でもごめん、今日はこんな足だからまた今度お邪魔するね」
「はい」
「そこのベンチにでも座って話そうか。ありがとう、もう降ろしていいよ」
「よいしょっと…高山さん、ちょっとこのまま座って待っててください」
「うん」

沢城は下駄の音と共にゲゲゲの森へ姿を消した

いてて…しかし派手にやっちゃったな
歩いて帰れるかな
とっさに避けただけなのに捻挫なんて
下駄のサイズが合ってないのかな?

高山がいつもの調子で少し斜めの考えをしていると、カランコロンの音を響かせた沢城が戻ってきた

「高山さんお待たせしました。ちょっと足をみます」
「え!わざわざ氷嚢を持ってきてくれたのかい?」
「家が近いので」
「ありがとう、助かるよ」
「凄い腫れてる」
「そのうち良くなるさ」

沢城は高山の右足首に氷嚢を乗せ器用に包帯で巻きはじめた
その様子を眺めながら高山は話出す

「この世界の妖怪達はどう?」
「この間、妖怪と人間の大きな戦いがあって、いろいろ大変だったんですけど、なんとか終息して…今は総大将となる器の妖怪がいないので、しばらくは平穏な暮らしになると思っています」
「そう…大変だったね」
「ちょっと大変でした」

自身が死にかけたなどの大切な話を端折ってたんたんと語る沢城
そして詳しいことまでは聞き出さない高山は、こう話を続けた

「妖怪と人間が絡む問題は本当に後味が悪くてね」
「?」
「どんなに協力して絆を深めてもいずれ忘れさられる。そしてどんなに忠告しても同じ過ちを繰り返す…」
「…辛かったですか?」
「ん?ん…最初は辛いことなのかもよくわからなかった…今もだけどね」
「…」
「あ、ごめん。変な話しちゃったね」
「っ…」

その表情をされると胸が苦しい
なぜ
きっとこの人は、僕と同じ闇を抱えている
知りたい…もっとこの人のことを

高山の悲観な表情は、沢城の共感を生んだ
屈んで話を聞いていた沢城は、ゆっくりと立ち上がり、高山より少し高い目線で語りだした

「高山さんの苦しさを僕も知りたいです」
「苦しさなんて…そんなの気持ちの持ち様だよ。僕はちょっと…その…自分で抱え込める苦しさなら自分で抱え込もうと思って…」
「…!」

ぎゅ

「沢城くん?」

何かに気づいた沢城は無意識のまま高山の背中に両腕を回して抱きついていた

「高山さん…僕も同じ事考えて今まで行動してきました。でも、周りから見るとこんなに苦しい思いをさせてしまっているんだなって、今わかりました」
「…ごめん」
「いいえ。高山さんの捻挫している足と同じなんです。言葉だけでは伝わらない。でも本当は赤く痛々しく腫れていて…その痛みの強さは本人にしかわからない」
「…沢城くん」

強気の心が生んだ最初のやりとりがもどかしい
きっと沢城はそう思っている

ぎゅ

「っ!」

今度は高山が沢城を抱き寄せる

「僕もわかった気がするよ」
「え…」
「僕も沢城くんときっと一緒なんだと思う。だからこれからは僕も1人で抱え込まないように気をつけるよ」
「…高山さん」
「ありがとう沢城くん」
「っ…なんでお礼の言葉なんて」
「今日、沢城くんに出会えてたおかげで気づけたからだよ」
「…」

理解に多少時間を要しているが、興味は確実に持ったようだった

「氷嚢ありがとう。腫れもだいぶひいたよ」
「歩けます?」
「ん…うまく力が入らないや」
「僕でよかったら送ります」
「妖怪横丁までかい?」
「はい、高山さんの暮らしている世界を見たい」
「ありがとう、でも今日は横丁の入口までにしよう」
「え…」
「またゆっくり会って案内したいからさ」
「また会えますか?」
「もちろん!ゲゲゲの森もまだ案内してもらってないしね」
「そうでしたね」

それでは本日2回目のおんぶです

「よいしょっと…」
「重くない?」
「全然重くないです。ちゃんとごはん食べてますか?」
「もちろん!昨日も3食素麺食べたし」
「…栄養の偏りがありそう」
「味に飽きたら、インスタントの味噌汁をかけると味噌ラーメンみたいになって美味しいよ」
「…あははっ」
「あ、やっと笑ってくれたね」
「え?」
「ここからじゃ沢城くんの笑顔が見れないけど、やっと笑い声が聞けて安心したよ」
「…//// 高山さんが可笑しなことを言うから」
「そうだね、そういうことにしておくよ」

高山の言葉にデレるデレ沢が誕生した瞬間だった
高山を妖怪横丁の入口まで送った沢城は、右足を引き摺りながら帰って行く高山の背中を見えなくなるまで見送った後、ちょっとだけ口元が緩ませながらゲゲゲの森へと帰っていった



ゲゲゲの森にて

「最近よく手紙を書いとるの」
「はい、伝えたい事があって」
「しかし、返事が来る前にまた送っておらんか?」
「書き忘れを思い出して」
「そうじゃったか」



妖怪横丁のゲゲゲハウスにて

「最近よく手紙がくるの」
「はい、嬉しいです」
「しかし、返事を書く前にまた来るとはな」
「書き忘れちゃうみたいです」
「そうか、お前も早く返事を書きなさい」
「はい父さん」



高山さん
捻挫は治りましたか?

追伸
今度はいつ会えますか?

追伸
お迎え行きます

追伸
好きな食べ物はなんですか?



ついこの間までの牽制的な手紙のやり取りが嘘のような光景であった




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