【華の想い】高山+風祭華



「いよいよ明日じゃのう」
「そうですねv楽しみです!」
如月のゲゲゲハウスでは、卓袱台の上に広げた1枚の手紙を眺めながら両手で頬杖をしている高山と茶碗風呂から身を乗り出して息子を眺める父・目玉おやじが仲睦まじく手紙の内容に触れた会話を楽しんでいた
余程楽しみなことが書いてあったのだろうか、高山の表情は満面の笑みに加え、ソーラー首振り玩具のように顔が左右に揺れていた
効果音を付けるとしたら“ルン♪ルン♪”がお似合いだ

「おーい!鬼太郎〜」
「ん?この声は―…」
「朝から気落ちするのう…トホホ」
目玉おやじの顔を顰めさせる声が家の外から聞こえてきた
段々声量を上げるその声の主は木の階段をギシギシと音を立てて上がると、部屋の入口でバタンと倒れ込んだ
「米粒でもいいからよぉ…何か食わしてくれ〜」
「またか!お前は少しでも―…」
「まぁまぁ父さん、いいじゃないですか」
「鬼太郎!お前は甘すぎるんじゃよ―…!?」
高山は親の答えを待たず、茶碗にごはんを盛り付け始めていた
尺取虫のように伸びたり縮んだりして部屋の中に入ったねずみ男は、卓袱台に広げられていた手紙に目を向け
「また妖怪退治の手紙かよ。正義の味方は大変なこった」
「そんな内容じゃないよ」
「ふーん」
ねずみ男は手紙の内容にはたいして興味を示さない様子だったが、目に入った日付に対してこんな事を言い出した
「明日か…お、明日って言えばバレンタインデーだな」
「バレンタインデイ?」
「女が男にチョコをあげんだよ。んで、言葉で好きだ!って言わなくても、渡しただけで伝わる日なのさ!」
「…!!」
「ほんでよ!今年は逆チョコってんで、男からあげるらしいぜ」
「…!!!!!!!!!!」
「…鬼太郎ちゃん?」
「なっなんだよ…;;」
「早くその茶碗くれねぇかなぁ…?」
「あ…」
高山の左手には、無意識のうちにライスマウンテンが出来上がっていた


*


「バレンタイン……ぎゃくちょこ…ちょこ…茶色…甘い…」
ねずみ男が去った後、高山はさっきの会話を思い出しては、目玉おやじに聞こえないないようにボソボソ…と呟いていた
「言葉に出さなくても…伝わる…煤I!!!」
茶碗を片付け終わったと同時に、何かに気が付いた高山は
「ぼっ僕、夕飯の買い物に行ってきます!!!!!」
「ん?おぉ…」
買い物籠を片手にバタバタと部屋を飛び出していった
「まだ日が昇ったばかりなんじゃがのう…」
父といえども、流石に今の息子の心中を察することはできなかった


人間界に来た高山はスーパーを何件も梯子しては、特設コーナーに立ち寄った
しかし、手にする形は全て
「ハート型…///」
流石にこれを買うのは恥ずかしい、と感じた高山は他の形を捜して見たものの、バレンタイン前日ということもあってか、品揃えはかなり少なかった
「どうしよう…;;;」
気付けば陽も落ち、そろそろ夕飯の買い物もしなくてはならない時間
いつもの魚屋に寄った後、「これで最後だ」と決めた店に立ち寄ってみたが、結果は変わらずだった
ガックリ肩を落とし、既製品のコーナーから少し場所を移した時
「…そうか これを買って作ればいいのか!」
簡単手作りセットを見つけた高山は売り場に残っていた3セットを堂々と購入し、駆け足で横丁へと戻っていった


その日の真夜中、父に内緒でゲゲゲの森にある廃屋に来た高山は、作り方の紙を広げては両腕を組み頭を悩ませていた
「材料は揃ってるけど…泡立て器がないな まぁ、おたまでいいだろう」
そんな呑気な独り言を言っていた時だった

ドタドタドタ…!!!!!

「お!鬼太郎じゃねーか!」
「煤I!!なっ!!ねずみ男!!!?」
「真夜中に何をしてんだ―…って!!ちょ!!鬼太郎が手作りチョコ!!!!」
「頼むよ><父さんや皆には内緒にしてくないか」
そこかよ?と思うねずみ男は、床に散らばっている調理機材を眺めては「おいおい…」と呟いた

 隠れて作る理由は明日会う奴の為か?

状況を飲み込んだねずみ男は、大声でこんなことを言い出した
「ビビビの料理教室〜♪」
「え!?なっ何する気だ!」
「俺が少しばかり手伝ってやるて言ってんだよ!!おっと…最初に念入りに手を洗わないとな!!」
「…ねずみ…男」
「ひっ冷て!!……ジャブジャブ………よしと!さぁ、作るか!」
「……ありがとう ねずみ男」

これで順調にいくと思われたが―…

「おい!チョコは湯せんで溶かすんだって、何度言ったら分かるんだよ!」
「だって、地獄の業火ならすぐ溶けそうだと思って…;;」
「鬼太郎〜!!粉砂糖はそんなに高くから散らさなくても平気だから!!」
「…><。」
ねずみ男の声は明け方までゲゲゲの森に響き渡っていた


数時間後
「…できた!!」
何ともいえない達成感が高山を包み、その想いを言葉にした
昨夜は想像を絶する光景が幾度となく繰り広げられた
既に陽は昇り日付は変わり、壁の隙間から暖かな光が差し込んでいた

高山が作ったのは「生チョコ」3セット
ねずみ男のおかげもあってか、かなり出来はいい方である
ラッピングしたチョコを両手で大事に持った高山は、ねずみ男と一緒に家路に向って歩き出した
「助かったよ!ねずみ男。お前がこんなに料理得意だとは思ってなかった」
「ふん。せっかく作ったのが失敗作に終わって…悲しむ顔が見たくなかっただけだってば!」
「ねずみ男…」
「と、言うことで!一番出来がいいコレ!貰ってくからな!!」
「ちょっと!!ねずみ男ーーーー!!!><。。。。」
悪友はやはり悪友であった


春一番が吹き荒れ、少し生暖かい日となった今日、高山は手紙に書いてあった場所で彼女を待っていた
「…ふぅ」
ここは、先の戦いを彷彿させるあの高台
平和な街を見下ろしては溜息を吐き、険しい表情を浮かべていた
頬に当たる風がとても柔らかい

「鬼太郎さ〜ん」
「あ…華ちゃん!」
自分の名を呼ぶ声に振り向いた高山は、笑顔で駆け寄ってくる華に向って手を振る
お互い「久しぶり」という挨拶を交わした後、高山から話を切り出した
「僕に渡したいものって?」
「実は年末、母と海外旅行に行ってきたのです。そのお土産を渡したくて手紙を書きました」
お土産という言葉を聞き、なんだか「ほっ…」と安心した高山
変に意識することを止めた為か、いつもより会話がスムーズに進む
「わざわざ買ってきてくれたの?ありがとう!」
「はいv開けて見て下さいv」
「うわぁ!…蜘蛛の巣?」
「ふふふv近いですけど…違いますよ」

華の土産は“ドリームキャッチャー”

「悪い夢を捕まえて、幸運を運んでくれるみたいなんですv」
「ありがとう!…あ、僕も華ちゃんに渡したいものがあるんだ」
「えっ!私に!?」
「うん。えーと…!!!!」
高山は肝心なことを忘れていたことにたった今気が付いた
そう、チョコを渡す口実を考えていなかったのだ
逆チョコなんて言えない…
そう思った高山は
「鬼太郎さん?」
「あっ!あの、華ちゃんからのお土産のお返しをしたくて、こっこれを渡そうと思って用意してきたんだよ…/// はい…//」
「わぁvありがとうございますv可愛いラッピングですね!」
「ほ…本当?」
「はいvあ、私、鬼太郎さんにお返ししないといけませんねv」
「おっお返しだなんて…そんなっ…」
「ご迷惑ですか?」
「いっ…いや…// ほっほら、コレは華ちゃんのお土産のお返しだからさ…!」
「でも―…」
「いいんだよ…//気にしないで」
高山は両手を振ってやんわり否定し続ける
そんな時、華が「あ!」と、驚いたような声を上げた
「あの、お返しは6月になってもいいですか?」
「…6月?」
「やっぱり…遅いですか?」
「いやっ…そんなことないよ(汗)」
「じゃ、受け取ってくれるんですねv」
「………あ……///」
視線を泳がせ戸惑った高山の表情は、なんともいえない可愛らしさで
その顔を見つめ返事を待ち続ける華の表情まで笑顔になるほどだった
「…うん」
結局、華の言葉に乗せられた高山は何にも言えず頷くのみだった


楽しい時間はあっという間に過ぎ
「またね。華ちゃん」
「はいv鬼太郎さんもお元気で」
笑顔で別れた2人はそれぞれの家に向かって歩き出した
お互いの姿が見えなくなった所で
「でも…なんで6月なんだろう…」
と、高山は家にたどり着くまで考えていた
一方、華は足取り軽くスキップをしながら
「6月になったら―…鬼太郎さんとずっと一緒にいられますねv」
と、呟いていた

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