既望



行為の後、松岡は高山から詳しく話を聞くことができた
ショルダーバックの中身は高山の全財産で、用途別に金額を振り分けてある封筒が何枚が入っていた
その中で少し大きめの白封筒には1番の額が入っており、手をつけてはいけないものだったが、先日の治療代に使ってしまい、その埋め合わせをする必要があった
保険証は持ち合わせていなく返金は望めない
だから―…
と、以上のことがあの行動を起こした理由だった

話を聞いた松岡はこう高山に提案した
「だったらさ、一緒にバイトしよう?」
「えっ?一緒に?」
「そう。スーパーのレジとかさ」
「えっ!?じゃ…今のはどうするの?」
「もちろん止めるさ」
「そんな…」
「実はね…試験が終わってから考えてたことなんだ」
「?」
「せっかく一度きりの人生なんだから、色んな人色んなことに目を向けてみようと思って」
「色んなこと?」
「そう。高山と会ってからなんだか考えが変わったんだよ」
「??僕?」
一緒に暮らし始めてからの松岡しか知らない高山は、どのように松岡の心境が変化したのかがよく掴めていなかった
でも、自分のおかげでいい方に変わったのだというのなら、そう思うと高山の顔に笑みが零れはじめた
「でも僕…人と話すの苦手で、何を言ったらいいかわからないし…」
「大丈夫さ!僕もそうだったけど、今は高山と会話してるし、スーパーのおばちゃんとだって会うと毎回話が盛り上がってる。高山もそうだろ?」
「…」
「ねっ」
「……うん!」
確かにあのおばちゃんとは自分も楽しそうに話をしている
それを思い出して松岡の意見に賛同した高山だった


**


2人はレンタル店でアルバイトを始めた
夏休みということもあり、応募者多数で難関か!?と思っていたが、実際の応募者は全くなく面接のみで採用が決まった
制服が支給され準備にかける費用も心配がなく、良心的なバイト先だった

松岡はなんとなくバイトの流れというものがわかっていたので高山に初歩的なことを教えたりしていた
お客さんに向っての挨拶、倉庫からダンボールいっぱいのものを持っては品出し、そして前出し、それから―

(大きな声を出すのはとても気持ちがいい、ちょっとした動きがこんなにも体力を使うなんて、これがバイトというものか)

と、高山は日に日に感じていた
最初の1週間は慣れない8時間労働が身体に堪え、風呂に入ってはベッドに倒れこむ日々
それでも新しい刺激に満ちた毎日が楽しい、と、2人はそう感じていた


**


バイト休みの今日、2人は部屋でゴロゴロと過ごしていた
とくにこれといった趣味を持っていない松岡は部屋の中に雑誌や娯楽用品などは持ち合わせていないため、暇な時間は専らTVをつけて時間を潰してた
今日もまた、いつものようにソファに腰掛けコーヒーを飲みながらTVを眺める
高山も同じ場所にいたが目線は下を向き、松岡が大学で使う定義だらけの本を読んでいた

(そういえば)

高山は部屋でよく本を読んでいたことに松岡は気付いた
「本読むの好きなの?」
「うん」
「僕はそういうのは駄目だな。言葉が難しくてさ」
「そんなことないと思うよ?」
「そういえば…前に倫理の課題の間違いに気付いてくれたっけ。高山は頭いいんだね!」
「あっそれは…!?………」
まだ話の途中のはずなのに、高山が急に黙ってしまった
「高山?」
「あっうん…」
松岡が声をかけると、高山は続きの言葉を紡ぎ出した
「使われてた記事が…父さんの作品だったから」
「父…さん?」
まだ聞いていなかった親の存在
でも、親がいるならなぜ―…


「僕は父さんを…探しているんです。作家の父を…」

[*前] | [次#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -