幾望



サク サク

陽射しが少し弱まった頃、部屋のベランダに高山の髪をカットしている松岡の姿があった
散髪が終わると少し大きめの手鏡を椅子に腰かけた高山に握らせた
「ちょっと短かったかな…」
「ううん。ありがとう」
高山は顔を左右に振りながら松岡の問いに答えた
手入れが行き届きハリのあった茶色の長髪は松岡と同じ髪型へと様変わりした

散髪の後は、高山に間違って購入したSサイズのシャツを着せ、色違いのMサイズに袖を通した松岡はいつもより厚みの増した財布を持ち買い物へと出た
同じ髪型、似たような服装、そんな感じで買い物に行ったもんだからレジのおばちゃんに
「あら弟さん?そっくりね〜」
「よく言われるんですよ」
と、初めて声を掛けられ松岡は嬉しさのあまり否定はせず愛想笑いで返事をした

食材の他に雑貨も買い揃え両手に買い物袋をぶら下げた2人は、部屋へ戻ると早速夕飯の支度を始めた
いつも松岡が真ん中で陣取ってる台所は、料理が得意という高山の陣へと早変わり
食材は余すことなく使われ、松岡はいつの間にか味見係りへと役職が変わっていた
カレーのつもりで買ってきた食材が冷蔵庫の残り物と高山の手により、白米、玉葱と卵の味噌汁、牛肉と野菜のカレー風味炒め、さいの目切りに茹でた野菜入りポテトサラダ、りんごのスライスと、短時間にこんなにも豪華に出来上がってしまった
2人はいただきますと声をあげ、出来立ての夕飯を食べ始める
「これうま〜」
「ほんと?よかったぁ」
味付けは薄口の割りに隠し味がしっかりと効いていつまでも口の中で噛み締めていたいほど
笑顔が絶えない食事中の会話は味の話から徐々に高山自身の話へと変わり
「えっ!?ゴホゴホ…ってことは僕と同い年なの!?」
「実は…」
一方は大学生、もう一方はホームレス
見た目からは決して予想がつかない真実を松岡は知ることとなったが、そんなことよりも歳が一緒と判明した嬉しさの方が勝った
「あの番組面白かったのにね」
「僕も見てたよ。最後は知らないけど…」
「あれはね、こうなったんたんだってさ」
「へぇーそれでそれで^^」
今の話題よりも昔の話題で盛り上がり始める
以前から疑問に思っていた親のこやあの公園にいた理由は聞かなかった
時間はたっぷりある、と松岡は焦らずに高山が心を開くその日を待つことにした


一緒に食事の片付けをした後、松岡は机に向かい、高山は隣の部屋のソファに腰掛け本棚に入っている分厚い教材を読み始めた

小一時間後

「はい」
「えっ! あっありがとう」
一呼吸しようと思い松岡が机から身を離した隙に新品のコースターにコーヒーの入った真新しい淡緑色のマグカップがのせられる
松岡は一瞬心を読まれたのかと思ったぐらい驚いたが、高山は何事も無かったかのようにソファへと戻ってしまっていた
この一杯を飲み干しラストスパートをかける

高山は松岡が手を休める時間まで付き合い、就寝の時間がくると2人は枕の端に頭を乗せ眠りにつく、こんな日が試験中まで暫く続いた


**


そして、待ちに待った試験最終日
「終わった〜」
約一週間に渡る試験を無事終え、松岡はなんともいえない達成感に浸っていた
今まで努力した甲斐があったと両手をグーーっとあげ背伸びをする
明日から2ヶ月に及ぶ初めての夏休みということもあり、気分は開放感に満ち溢れていた

試験用ノートを鞄に終い始める松岡の元に同学部の西村が近づく
「松岡くん。あっあの…試験…どうだった?」
「まぁまぁかな。君は?」
「あたし追試かも…苦手なんだよね…統計」
「統計か…コツを掴めば簡単だと思うよ」
「どんなコツなの?もし…よかったら今度教えほしいな」
「いいよ!じゃ休み明けにでも!」
「えっ!?うっうん」
松岡は講義が終わるとすぐに大学を去ってしまうため、クラスメイトとは入学してから数えるくらいしか会話をしたことがない
そして、今も西村の前から松岡の姿はとっくに消えていた
「休みが明けちゃったら…後期の統計が始まっちゃうよ〜あっその時に前期の統計を教えてもらえばいいのかな」
西村の本心が松岡の心に届くことは、この先しばらく訪れそうになかった

[*前] | [次#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -