※朔




様々な場所で新しい出会いが増える季節が今年も巡ってきた

構内の桜の木は、1人暮らしの学生たちに淡い微笑みを早々に与え終えると、青々と茂った葉から新生活の様子を見守り始めていた
眼鏡からコンタクトデビューをした学生、美容室でカラーリングを楽しむ学生が多くいる中、やや面倒臭がりやの松岡はサークルにも入らず、講義以外の時間をバイトに費やす日々を過ごしていた
バイトといってもビラ配りという仕様もないもの
でも松岡にとっては、誰にも関わる事がなく自分のことにも干渉されないことに少し満足げだった

無頓着な人生

可哀そうだが松岡にはそんな言葉が似合いそうだ


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「遅れそうだっ」
時間ぎりぎりまで布団で過ごす代償として、慌てて部屋を飛び出ては原付に跨り通学する
腕時計が示す8時30分
時刻通り始まるこの風景はここ3ヵ月不変であった
松岡の通っている大学は住んでいるアパートからよく見える場所にある
アパートと大学の間には中規模な公園があり、その奥にはちょうど大学の裏門がある
そこを通れば徒歩で10分もかからず大学へ行けるが、松岡はわざわざ原付で迂回し正門から通っている
休日でも親子連れがほとんどいないその公園は、整備されていないためかホームレスの溜まり場と化しており、好んで足を運ぼうとする人はいない
もちろん松岡もその1人だった


**


もう少しで梅雨が明ける月のある週末

大学の講義室に忘れ物をしてしまった松岡はバイト帰りに夜の大学へ来ていた
いつものように正門から構内へ入り最短距離で目的を果たした後、裏門前で不意に足を止めた
「ここから帰ればすぐ家に着く」
腕時計は23時過ぎを示していた
整備が行き届かない公園の街灯は数えるくらいしか灯っていなかった
「この灯りでは住民達も寝てるに違いない」
そう判断した松岡は、今まで足を踏み入れたことのない場所へと静かに入っていった

月明かりを頼りに薄暗い公園内を忍び足で歩く
あともう少しで出口にたどり着こうとした時、少し開けた場所のベンチに人影がみえた
「こんな時間に誰が?」
様子が気になった松岡はベンチ裏の垣根に身をひそめた
するとまもなく、その人物に2〜3人の成人男性が集まってきた
何か話しているようだが声が低く松岡の耳まで届かなかった
数分後には、ここの住民と思われる人々も徐々にベンチに集まりはじめた

(何がこれからはじまるんだ)

恐怖心の中に残っていた僅かな興味心をそそられ、その様子を葉の隙間から息を殺し覗き見ることにした
人だかりが多く一体何をしているのかがよく見えなかったが暫くすると、か細く擦れ気味の官能的な声が聞こえてきた
その声に続くよう汗臭い体臭、荒い息遣い、獣のような呻き声と共に独特の臭気が松岡の鼻に衝き始めた

(これは!?あの人たち少女を犯しているのか?)
(でも…悲鳴をあげないのは何故なんだ?)
(口を抑えられているのだろうか?助けなきゃ…)

「でも…怖い」
松岡には自分を奮い立たせる勇気がなかった

暫くして、事が済んだ住民等はベンチから一斉に去っていった
そしてその場には、最初に見たあの人物が手足を力無く投げし横たわっていた
松岡は横断歩道を渡るかのよう首を左右に振り、人がいないのを何度も確認してそのベンチに駆け寄った
「しっかりしろ!…男?」
「………ぁっ………」
少女と思っていた人物は幼い顔つきの少年であった
目は半開き状態で意識が朦朧としているのか時折嗚咽が聞こえるだけ
身体には爪あとがいくつもみられ、孔からは赤と白が混ざり合ったものが流れ出ていた
松岡は手持ちのハンカチを水道水で濡らし、少年の身体の汚れを拭きとる
風呂には入ってきたばかりなのだろうか、少女のように長い茶髪からは微かにフローラルの香が漂っていた
「とりあえず一緒に部屋へ戻ろう」
ベンチの辺りを見渡すが、服らしきものが見つからない
松岡は着ていたジャケットを脱ぎ、その少年に羽織らせ背中におぶった
見た目通りというか大学の教材より軽いその身体
でも、それからは想像出来ないほど背後から伝わってくる力強い鼓動を感じながら松岡は足を急がせた

松岡は部屋に戻ると暖かいタオルで少年の身体をもう一度を拭いた
蛍光灯に照らし出されたその子の肌はまるで雪のような白さだった
まだ封すら開けていなかった来客用の寝巻きを少年に着せベッドへと横たえさせた

公園からずっと閉じられた瞳
いつ開かれるかも分からない
もしかしたらそのままかもしれない

背中に残る熱が松岡の不安を掻き消した
「目を覚ましたらやっぱり怯えるのだろうか」
違う不安を抱きつつ松岡は居間のソファで眠りについた

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