朧雲



空っぽの茶碗に入ったまま目玉おやじは転寝をしていると
「高山くん?いる?」
「…ん?おっと来たようじゃな」
家の外から息子を呼ぶ声が聞こえ外へ覗きにいくと、似たような顔を持つ2人を見下ろし声をかけた
「すまんが…鬼太郎はまだ寝とるんじゃよ」
「そうですか…ではまた来ます」
「すまんのう」
2人の鬼太郎は残念そうに家を後にした
「大丈夫かのう…」
部屋に戻った目玉おやじもまた見舞いに来た鬼太郎たちと同じ気持ちで息子の様子を見守り続けていた
高山は今日で5日間も眠り続けている
魘されることもなく静かに呼吸をし、疲れきった表情のまま瞳を閉じている


その日の真夜中、高山がやっと目を覚ました
どのくらい時が経ったのかも分からない高山は起き上がろうとしても力がはいらずモゾモゾと動き出していた
駆け寄ってきた目玉おやじに対して高山は「すみません」と小さく呟くと父は何も言わずただ息子の頬を優しく撫で続けた


翌日、高山は気分を晴らそうと人間界を訪れていた
買い物をするでもなく、妖怪退治もするでもなく、ただ思うがままに歩き続けた
気が付いた頃には賑わう繁華街を抜け、静かな山道に入っていた
そろそろ横丁へ戻ろうとしたその時、崖っぷちに立つ1人の女性の姿が目に入った

(その先に道は無いというのに一歩一歩足を進めてる。まさか!!?)

「危ない!!」
高山は瞬時に駆け寄りその女性の身を自分の方へ抱き寄せた
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
「…はっ 私…一体…」
「とりあえず場所を移しましょう」
近くの開けた場所へ女性を誘導し、高山も隣へ腰掛けた
「さっきはごめんなさい」
「いえ…」
「私…もう頼れる人がいなくて…どうしようもなくて…つい……」
かける言葉が見つからず、高山はじっとその女性を見つめていた
「実は…君と同じくらいの息子がいたの。でも先月交通事故で亡くしてしまった…」
「そう…だったんですか…」
「最後の家族を失って私には希望もなにもないのよ!」
「………そんなことないと思いますよ」
「えっ?」
「近くに居なくたって…きっとどこかで見守ってくれている 辛い時は顔を思い出しただけで希望が沸いてくる。それが家族という絆なのではないでしょうか」
「…………ありがとう。春弥―」
「えっ」
「ぁ!ごめんなさい…息子にそっくりでつい…」
「僕がですか?」
「そうよ」
さっきまでの暗い表情とは違い、明るい笑顔へと変わったその女性
そんな顔で覗かれた高山は自分の鼓動の加速を感じていた
「また…会ってもらえない?」
「えっ」
「このままだと私…また同じようなことしそうで…」
「…僕でよかったら」
放って置くときっと命を絶ってしまう、そう感じた高山は明日の午後に公園で会う約束をしてしまった

これもきっと人助けなのだと信じて


次の日
「高山くん!元気になって本当よかった!」
「うん。心配したんだよ」
「すみませんでした。もう大丈夫です」
すっかり顔色もよくなった高山をみて安堵の表情を浮かべる鬼太郎たちは、松岡の差し入れを摘みながら楽しく話をしていた
そんな中、高山は窓から太陽の位置を確認するとすっと立ち上がる
「どうしたの?高山くん?」
「僕、ちょっと出かけてきます」
「買い物かい?」
「いえ。ちょっとした用事です」
そういって、高山は手ぶらで部屋を出て行った
「高山くん何処に行くんだ?」
「さぁ」
「おい鬼太郎たち」
「あっ高山くんの父さん」
目玉おやじに声をかけられ、2人は卓袱台の前に正座をした
「鬼太郎が席を外した今だからいうんじゃが、実は…鬼太郎は母さんのことばかり考えるようになってのう…」
「「えっ!!」」
目玉おやじはここ最近の高山の様子を2人に話し始めた
それが原因でつい先日まで寝込んでしまっていたことも
その話を聞いて戸田は記憶を辿るように話しだす
「松岡…もしかして…」
「うん…僕も言い出そうとしてたところだよ」
「何か知っとるのか?」
「実はこの間、僕たち母さんの話をしてたんですよ」
その時丁度高山が帰ってきて、話の内容を伝えた時の反応を目玉おやじに伝える
「そうじゃったか…」
「すみません…まさかこんなことになるなんて」
「余程気になってたんじゃな…」
これからどうすべきなのか…3人で話し合いながら高山の帰りを待った


夜空におぼろ雲が出始めた頃、出かけたときと同じく手ぶらで高山が戻ってきた
「ただいま戻りました」
「お帰り高山くん」
「遅かったのう」
「すみません」
夕飯は3人で済ませてしまったが、高山が何かを口にする動作はみられず、いつものように目玉おやじのお風呂を準備しはじめていた
そんな高山を見つめ2人は母の存在を意識付けてしまったことを謝ろうとした矢先
「父さん、僕もう母さんのこと大丈夫です」
「なに!?」
「「!!?」」
高山の発言に驚いたのは目玉おやじだけではなかった
先日まであんなに取り乱していたというのに信じられないといった表情を浮かべる目玉おやじ
そんな父の顔を
「父さんどうしたんですか?」
「あっいや」
心配そうに見つめる高山
昨日と今日で余程いい気分転換が出来たのだろう
"本当に大丈夫みたい"と2人は笑顔で見つめ合った
3人は高山の言葉を信じていつも通りに生活に戻れたと感じたのだった
「夕飯まだだろ?何か作ろうか?」
「僕は大丈夫です」

(頂いてきたので)

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