冬はつとめて



「驚かせてごめん」
沈黙を割ったのは背の高い少年だった
「これを届けに来たんだよ。大事なものなんだよね?」
少年の懐から高山の霊界符が顔を出す
「あっあった!よかったぁ〜ありがとうございます」
少年から受け取り自分の懐に入れ喜びに浸かっていたが、一つの疑問を投げかけた
「あの…これを何処で拾ったんですか?」
「僕の世界のゲゲゲの森だよ」
「僕の世界?」
この言葉が何を意味するのか今の高山には知る由もなかった
「詳しいことはまた後で!じゃまた!」
「あ…行っちゃった。誰だったんだろう…って夕飯の買い物行かなきゃっ」
慌てて横丁で買い物を済ませ家へ戻った

「そっそんなに凄いかのう…」
「はい!凄いですよ!これは―」
その日の夜はいつも以上に霊界符を見せ付ける高山におやじは困惑の色を隠せなかった


翌日―


「よいしょっと」
まだ陽が上る早朝
辺りを照らすつるべ火と共に高山は未だに乗れぬ自転車の練習を始めていた
最近はおやじの眠っている頃を見図り、深夜か早朝に練習をしている
しかし、この間みたく夜に練習すると足元が見えず転んだりしてしまうこともしばしば
毎日早起きするとおやじも勘付いてしまうと思い、数日置きにしていた
「ん?」
つるべ火が池の近くを照らすとなにやらポコポコと泡が出ているのに気が付く
自転車に跨ったまま様子を見てると―

 ゴボゴボ ゴボゴボゴ…

「ぶー!! 冷たいっ」
「わぁっ!」
池の中からいきなり人が現れ、その驚きのあまり自転車ごと倒れ込む
「イテテ…」
「ん?あ!君は!」
「え?」
ビショビショになった少年が高山に声を掛ける
「5日毎に早起きしてたのはこれか〜」
「なっ////」
「乗れないの?」
「うっ…」
質問攻めのうえ、さらに下からマジマジと顔を覗かれ高山は図星の表情を浮かべる
「こんなの簡単じゃないか 僕が教えるよ!」
少年が高山の握っているハンドルに手を掛けようとした瞬間―
「おい!戸田なにやってるんだ!」
「げっ松岡 なんでこんなところに!」
「あっ!」
先日、霊界符を届けてくれた少年が何処からともなく現れた
この2人の少年はお互い名前で呼び合うことから知り合いなのであろう
「あっち!あっちで練習しよう!」
「何を言ってるんだ!僕が教えた方が上達するさ」
「何ぃ〜!」
「!!!」
犬猿の仲なのか、先ほどから言い争いが絶えない
「君には渡さないよ」
「僕が始めに見つけたんだ!」
「行動に移したもん勝ちさ」
「どうだかね」
「ひっ…」
2人のやり取りを聞いているだけで何だか背筋がゾクゾクし、まるで冬が訪れたかのように感じる高山であった


この出会いは、新たな世界への旅立ちとなる手駒が揃ったに過ぎなかった



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