虹雲



『ぐぁああぁぁああ!!!』
「きゃぁああああ!!」
「母さん!!」
女性が発狂した声をあげるとその身体から霊のようなものが浮かび上がった
「こいつが無女か!」
『もう少しだというのに!この愚か者めが!』
女性は足をもたつかせながら行き場のない空間を駆け巡りはじめる
「母さん!どこに行くんですか!」
『放っておけ、あの女にもう命はない』
「なんだって!?」
『もうすぐ潮時だ。魂は妾のもの…』
「人間の魂を喰らうなんて赦せない!くらえ!リモコ―」

ガクン―

『ははは!もう妖力はそれほど残っていないはずだが?』
「なんで…くっ…」
『あの女のせいだ』
「!?…どういうことだ…」
自分の少なすぎる妖力の肥やしにするため 人間に取り付き願いを叶えると騙してはその魂を奪う
それが無女の正体だ
今回取り付いた人間には運よく強力な妖力を持つ鬼太郎がいつも側にいた
絶好のチャンスだ
案の定、無女の甘い誘いにのり約束を交わす春弥の母
そして知らず知らす罠にはまっていった高山
「人の弱みに漬け込むなんて!?…くっ」
『最後に言うのはそれだけか』
「!!?」
何時の間にか無女の手にあの女性の姿があった
息はしているもののぐったりと力ないその身体
「やめ…ろ…」
『安心しろ。お前もこの女の次だ』
高山の目の前でいつも側にいた人物の魂が抜き取られていく
やっと自分の気持ちに素直になれたのに―
高山は声をあげることが出来ず、ただただ歯を食いしばるだけだった

「「やめるんだ!!!」」
「!!?」
『誰だ!』
そこには外の世界にいるはずの戸田と松岡の姿があった
2人の顔は違えど鬼の形相そのもの
妖力を全開にして挑んだ戦いは無女の声を聞くこともなく瞬殺で終わった
解き放たれた魂が持ち主の元へと帰っていく
それを見送った後、戸田は女性を、松岡は高山を抱き、無の空間から脱出した

*

ここは公共広場の噴水前
その水面にはあの母親と高山の姿が映し出されていた
「あの時、名前を呼んでくれなかったら無女を退治することができませんでした」
「私にはそれしかできなかったから…それより身体もう大丈夫なの?」
「僕は大丈夫です」
自分の身の方が危険だったはずなのに最後まで高山を心配してくれる
母親という存在がどれほど凄いものなのか
高山は少しだけ感じ取ることができた
段々と交わす言葉も少なくなり
「さよなら、鬼太郎さん」
「さよ…なら 春弥くんのお母さん…」
最後の挨拶をして見送った後、高山は2人の元へと戻ってきた
頭に手を回しながら2人に向って
「僕って駄目ですね。鬼太郎失格かな。あはは…」
高山は今にも溢れ出しそうな滴をぐっと堪えながら苦笑いをした
そんな高山の両手を戸田と松岡が言葉を掛けながら握る
「優しさだけじゃ解決出来ないこともあるんだよ?」
「松岡さん…」
「そうそう。本当のことも伝えなきゃ」
「戸田…さん。そう…ですよね」
自分ひとりで悩んでも解決しないことだってある
だったら仲間に相談したっていいじゃないか
皆同じ鬼太郎なんだから―

戸田さん
松岡さん
本当にありがとうございました

高山の顔に本当の笑顔が戻った
「あっ2人とも上をみて」
突然、戸田が声をあげ空を指差す
そこには七色に光輝く大きな虹が姿を現していた
「綺麗ですね」
「うん…」
「そうだね」
高山の心もその配色と同じくらい変わって来た事だろう
たとえそれが鮮やかな色を放っていなかったとしても、今の高山はそれに劣らないほどの煌びやかを放っていた
「さぁ 帰ろう!」
「高山くんの家へ!」
「はい!」
3人の鬼太郎は手を取り合い、妖怪横丁へと帰って行った

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