雨雲



今日も窓から入る日差しがあの時間を知らせる
「父さん、出かけてきます」
「鬼太郎…今日は休んだ方がいいんじゃないか?」
「どうしてですか?」
「顔色が…何だか悪そうじゃよ」
「父さんの気のせいですよ。では」
「鬼太郎…」
目玉おやじは家を出て行く高山をただ見送るしか出来なかった

「今日は勝手な行動は慎むんだぞ」
「わかってるよ。心配性だな」
幹の影に隠れていた2人は、高山に気付かれないようそっと後を付けていった


横丁の灯篭を抜け、辿り着いた先は団地の公共広場
そこにあるステンレス性のベンチに高山は腰掛け誰かを待っているよう素振りをみせていた
2人は団地の屋上から高山の行動を見守ることにした



数分後、1人の女性がそのベンチに駆け足で近寄ってきたのに合わせて高山が立ち上がり話をし始めた
「うわ…綺麗な人だな」
「この人と会っていたのかな」
何を話しているのだろう、ここからでは遠すぎて聞ききとることが出来ない
暫くすると女性は高層ビルの立ち並ぶ方角を指しながら高山と歩き始めた
戸田と松岡はその2人と微妙な距離感を保ちながら後をついて行った


着いた場所は開店したばかりの百貨店
入り口は豪華な花飾りがあったり新規会員の受付などで人が溢れ返っていた
その中を高山たちはいとも簡単にスイスイと進んでいく
「うわっ押される・・・あぁぁぁ―」
「人が凄いね…って戸田?どこ行ったんだ」
「ここ!ここだって!」
慣れない人込みに戸田は苦戦してしまい 2人は高山の姿を見失ってしまった
妖怪アンテナを頼りに館内を進むと妖気を感知した場所は最上階のレストランであった

高山たちが少し遅めのランチをとっていることを確認し、戸田の提案で2人も店内に入り角の席からその様子を伺うことにした
中はそれほど広くなく、ここなら少しは会話が聞き取れるかもしれない
まだ食べ始めの高山をみて、松岡はコーヒーを頼み戸田もメニューを見て慌ててミネラルウォーターを頼んだ
「なんで水?」
「・・・」
その理由は簡単で、戸田が手にしたメニューが英語で書かれたものであったから

食事中の会話からはやたらと「昨日」といった単語が耳に付いた
「昨日の続きは…」とか「この間のあれは昨日みたあれだったんですね」など
2人は声を合わせ、高山の行動を推測した

連日会って居たのは、この人だと 

食事が終わると高山たちは店を出て、百貨店内を隅から隅まで見回り始めた
これまでと何か違うことといえば、高山がその女性と手を繋いでいること
周りから見れば本当の親子のようにも見えなくない

買い物を終えると最初の広場へと戻ってきた
高山とその女性は水の出ていない噴水の前で話をしている
もちろん手は繋いだまま
「今日もありがとう」
「いえ、僕の方こそ…」
「これからだけど…」
「すみません。今日は―」

「なんとも…なかったな」
「そうだね」

高山たちの今日の行動は、主に買い物と食事
その時の会話もごく普通なものであった
高山もそろそろ帰る素振りをはじめている
その時、何かに気付いた戸田は目を丸くして松岡に話しかけた
「おい!池を見ろよ!」
「これは!!?」
水のはった池には高山の姿しか映っていない
人間なら映らないはずがない
けれど妖怪なら、と、戸田の直感が働いた
「無女めっ今にみてろよ!!」
「やめろ!戸田っ!」
松岡の言葉を無視して戸田は高山たちの前に姿を現した
「とっ戸田さん!?なんでここに…」
「高山から離れるんだ!!無女!」
「!!?」
戸田は高山の質問には答えず、女性の手をビリビリと高山から離そうとする
「何をするんですか!?離して下さい!!戸田さん!」
「高山くんっ君は騙されているんだ!!」
「っ!!何を言ってるんですか!!冗談はやめて下さい!!」
戸田が懐からオカリナを取り出すと松岡も慌ててその場に飛び出した
「高山くん!事情は後で!今日は一緒に戻ろう!」
「松岡さんまで!離してっください」
松岡は高山の手を握るとその場から連れ出そうと自分の方へ引く
すると、
「やめてっ」
「「「!!」」」
その女性が声をあげ、3人の動きが固まった
「私の春弥に手を出さないで!!!」
「「!!!!」」
女性の身体から薄っすらと紫の邪気が立ち込め始めた
呆然と立ち尽くす松岡から高山の手を奪い取り抱き寄せると、光が2人を包み込始め、女性と高山は池の中へと消えていった
「「高山くん!!!」」
一瞬の出来事に2人は慌てて池に近寄ったが、そこには高山の姿はなく2人の姿が映し出されるだけ
「高山くん!!!!高山くーーーん!!!」
「返事をするんだ!!高山くーーん!!」
2人の叫び声が水面に波紋を起こす
「どこにいったんだっ…妖気も残ってない」
「くそっ…」

バン!バン!

戸田はやり場のない怒りを池の縁にぶつけていた

ポツ― ポツ―

握り締める拳に小さな水滴が付きはじめる
「高山くん!!!」
「高山ーー!!!」
「どこいるんだ!!!!」
「返事してくれ!!!」


ザーーーーーーー


大雨が降りしきる中、2人は池に向い叫び続けることを止めなかった

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