風波-ふうは-


1500年代の和国は幕府による勢力拡大が盛んに行われ、相次いだ落城や守護大名の争い、流行病、物価の上昇などが重なり、各地の一揆は止むことを知らず行き場を失う農民が数多く存在した。
一部の有力者の中には守護と主従関係を結び武士となるものが現れ、陰陽師や忍の力を借りながら他領土の武士と争うものも少なからずいたが、結果は互いの潰し合いに終わるのみ。
大半の農民たちは村の神社や寺などで定期的に会合を開き、目まぐるしい世情についていくための情報をかき集め、細々と暮らしていた。


この時代、金銭よりも重要視されていたのは“情報”であり、その扱いの巧さは“忍”をおいて他に存在しなかった。
各々の領主は徹底的な秘密主義と完璧な任務をこなす“彼ら”を直属の配下にすることで、敵の動きを観察し己の勢力を保ってきた。
和国全土に広がる全ての忍流派が領主と結びついている訳でなく、彼らの“果たすべき目的”が合意した場合のみ配下に属している。
全ての流派に共通して言えることは、人里離れた土地で集落を築き能率的な集団行動をとることと、流派からの脱しは言語道断ということだけであった。


*


関東平野と北西の山との境目に、奇襲攪乱を得意とする戸田流派の忍里があった。
古道に沿った静かな田園風景の中に茅葺の住居が数軒、その間を縫うように湧水を水源とする川が流れ、里の奥には木の上に造られた少し大きめの木造の家。
小鳥や小動物も遊びに来るこの小さな里は、初めて訪れる者にとってとても忍里とは思えないくらい自然豊かな村であった。
しかし、住人たちは歴とした忍。
ある時は先頭要員の足軽として戦場を攪乱させ、ある時は城へ侵入し諜報活動や重役暗殺を企む。
仕える領主はいないが、彼らは“人殺し”ではなく、混沌としたこの時代に“平和と平等”を取り戻すため日々戦い続けていた。


梟の鳴き声が響き渡る深夜、里長の家で密やかな会合が開かれていた。
招かれたのは、リーダー格の忍・黒烏と将来有望の若手忍・戸田の2人だけ。
里長はこのあたりの地図を広げながら、早々に本題に入った。
「最近、巷で妙なことが起こっているらしいんじゃ」
「妙なことって?」
「人が消えるんじゃと。着ている衣を残して人だけが消えるんじゃ。狙われた里は…」
里長は地図上に朱筆で歪な円を3つ描いた
「3つの里は西の方角なのですね」
「西…」
「おや?どうしました?鬼太郎殿?」
「あ、いや。なんでもないよ。おじじ、話を続けて」
「ふむ。…お前たち、陰陽師とやらを知っとるか?」


里長の数時間に及ぶ話は明け方まで続いた。
数時間ぶりに外の空気を味わった2人は、里一番の高木に造られた見張り台へ居場所を移した。
霧に包まれ幻想的な朝を迎えようとしている里を眺めながら、戸田は黒烏にこれからの指示を仰いだ。
「こんなに里は平和なのに…でもさっきの話だと、僕たちはどう動いたらいいんだろう」
「我々の里が狙われる日もそう遠くはないかもしれませんね。とりあえず情報を集めましょう。特に西側の情報を集めなくてはなりません。それと鬼太郎殿、能登のくノ一にも早く伝えてきなさい」
「!!…さすが黒烏さん。わかってたんだね」
「鬼太郎殿はすぐ顔に出ますから。さ、私は里の者に上手く話を伝えてさっそく任務を開始します。3日後にまたここで落ちあいましょう」
「わかった!皆によろしく頼みます。」
黒烏と別れた戸田は忍装束で口元を覆い身なりを簡単に整えた後、風を切るように木々に飛び移りながら北陸地方へと姿を消していった。


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