塵旋風-じんせんぷう-


翌日、屋敷前に色とりどりの忍装束を着た100名規模の若者が集まり、同じ話題を繰り返していた
「皆さ、なんでこのバイトにしたの?」
「時給が高いから応募したんだ。別に忍者に興味があるからってわけじゃないよ」
「俺も同じ。でもさ、ここの経営者の先祖は腕の立つ忍者っつぅ噂じゃん」
「その話マジかよ〜」
数分後、ガヤガヤと騒がしい若い彼らの前に白髪交じりで作業着を身にまとった初老の男性が現れた
重たそうな拡声器をゆっくりと持ち上げ口にあて、
「おはよう諸君!園長の木下だ。今週末からリニューアルオープンするこの“木下流・忍者の里”!!バイトの学生諸君!しっかり練習してたんまりと稼いでくれよ!以上だ」
短めの挨拶を済ませると、集まった人々はそれぞれの担当部署へ散らばっていった

屋敷の屋根からこの様子を眺めていた戸田は少し困惑していた
「この人達は一体どこから現れたんだろう。昨日と同じく忍の真似をしているんだろうな。でも何故…」
この状況を500年前の知識でなんとか理解しようとしたが、幾分無理があった


戸田は、昨日と同じく屋敷の窓の外から中をのぞいてみた
広い室内で2人の男性が本を手に稽古をしていた
「えっと台本はどうなってるんだっけ?俺が雇い主が欲しがっている玉を盗む忍者の役ね」
「そうそう。それで、俺は玉を守る忍者。ここで俺たちは、手裏剣を使ってちょっとした戦闘を披露・・・だってさ」
「手裏剣ね。昨日も練習したけど、刺さんないんだよな〜。それで、玉ってどんな玉なの?」
「薄紫色でハンドボールみたいな大きさの玉がこの用具箱の中に…あるはずなんだけど…」

 ゴソゴソ…

「あった。これだ!」
「ふ〜ん。昔流行ったスーパーボールのデカイバージョンだな。弾むかな?」
1人の学生が霊石そっくりのゴム性ボールを手にした
その瞬間
「あれは!?霊石!!」
と、案の定、勘違いをした戸田は、窓を突き破り彼らの前に姿を現した
「ちょっお前誰だよ!今、セリフ合わせ中だってば!」
「そうだぜ!邪魔すんな!早く持ち場に戻れって!」
「五月蠅いっ!そいつを俺によこせ!」

 ガヤガヤ・・・

同時刻、バイト学生の様子を見に担当者がこの場に近づいてきた
離れた場所から見える彼らの動きを見て
「へぇ〜運動神経のいい学生がいたもんだ。もっと近づいてみてみっか。こりゃ俺様の担当はバッチリ―」
「ぐへぇっ!」「ぎゃっ!」

バタ・・・バタ・・・

と、感動していた瞬間、担当者の足元に学生2人が倒れ込んできた
担当者の思考は一時停止
徐々に状況を理解し始めると、倒れていないもう1人の男を睨みながら
「おいおいおいおいおいお!!何してんだよっ!おーい!誰か!誰か!!」
大声をあげ施設スタッフを呼び出した
「逃げないと…」
彼らの鳩尾を狙い気絶させた現場を人に見られた戸田は、急いでこの場を去ろうとした
が、屋敷内の最新設備の方が勝った
窓は防火シャッターが作動し開閉不可
出入口は頑丈な扉で閉められ、唯一開いていた非常口からは人が駆け寄ってくる
こうなったら袋のねずみ
どう足掻こうと戸田に逃げ場はなかった

*

「いい加減にしゃべったらどうだ!」
「・・・」
別室にて、動きを封じられた戸田は園長直々の拷問を受けていた

小一時間、無言を突き通す若者
「もうよいわ!」
堪忍袋の緒が切れた初老は、壁に立てかけてあった模造刀を手に―
しようとした瞬間、第一発見者のスタッフに止められた
「ちょちょーっと待ってってば!こいつは俺の担当者だっての。園長さんの腕前は知ってる!これ以上、担当者の人数を減らさないでちょーだいっ」
「減らしたのはこいつだ!!週末のショーに間に合わなかったらどうしてくれるんだね!君の責任だぞ!!」
「大丈夫であります!こいつがしっかりやってくれますから!」
「っ!」
「まぁまぁそう睨むなよ〜ってことで園長さん、この辺にしてくださいよぉ〜」
「ふん。ま、結果がすべてだ。もしものことがあったら、わかってるね!ねずみ男くん!」
「わかってますってば!だからお任せ下さいって!ほら、お前も頭下げて、なっ!なっ!」
ねずみ男の大きな手に押さえつけられ渋々頭を下げた戸田だった

*

施設内の職員食堂
戸田とねずみ男と名乗るスタッフは丸テーブルの椅子に向い合せに座り、昼食が運ばれてくるのを待っていた
「・・・」
「俺が何したってゆうんだよ〜そんなに睨むなって。うまい飯を食わせてやるから。ほれっ」
戸田の目の前に出来たてのかつ丼が用意された
「ほらよ。食え。ここのは結構うまいんだぜ」
「・・・」

 パク・・・!?
 ガツガツガツガツ

「うまそうに食うな〜どんだけ腹へってたんだよ。身だしなみも…着てんのは古着か?お前どこの貧乏学生だよ?」
「がくせい?がくせいってなんだ」
「おいおい…(こいつバカか?)お前さん歳いくつだ?」
「17」
「17!?随分と大人っぽい高校生だなっおい。でもよ、高校生のバイトは雇ってないはずだけどな、なんでお前みたいなのがここにいんだよ」
「こうこうせい?バイト?さっきから不思議な言葉を言ってるけど、どういう意味なんだ?」
「お前こそ、頭大丈夫かよ…ん、いや待てよ」

 何から隠し事をしている匂いと物凄く金になりそな匂いがプンプンするぜ
 そして、あの並外れた動き!
 ビビビっ!!!
 こりゃいい獲物かもしれないぞ!

「お前さん、これから行くあてとかあんのかい?」
「とくにない」
「少しの間だけ、俺様が特別に面倒みてやってもいいかな〜って思ってるんだがどうですかね〜?」
「・・・面倒?」
「そそっいろいろただで教えてあげちゃう!うんうん」
「・・・教えて・・・ほしいことはある・・・」
「でしょう?そしたら交渉成立!!はいはいここにサインしてねっと。おっと随分達筆なサインだね。お前さん名前は?」
「鬼太郎…」
「鬼太郎ちゃんか!はいよ、あとは俺に任せなってなに泣いてんだ!?おいおい。いい歳して泣き虫はごめんだよ」
「いっいや・・・ごめん。泣いたわけじゃなくて…ちょっとだけ嬉しかったからつい・・・」
「ん〜?まぁ、いいか。さて、さっそく寮に案内すっか」
本物の忍が、偽りの忍集団の中で過ごす
そんな現代での戸田の生活が今日から始まった


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