颪-おろし-


とある重要文化財の薄暗い仏間の奥から細い煙が天井に向けてゆらめいている
徐々に煙の量も増え、眼を凝らしてみれば、どことなく人型に見えなくもない
「あれはなんだ?」
「煙?火事か!大変だ!!」
「違うぞ!よく見てろよ!」
「・・・この匂い・・・ヤニ・・・」

カツ…カツ…カツ…カツ…

「おっおおおぉ〜お久しゅうぶりです!!」
「変わらぬ、その姿・・・(嬉涙)」
「ずっとずっと祈り続けておりました!!」
「・・・」
「毎日欠かさず護衛しては、あの場所を探し回り!」
「毎日毎日食事の準備をして!」
「毎日毎日毎日夜はしっかり熟睡!」
「え〜い、静かにせんか!5年経っても何一つ変わらんのか、お前らは!」
人型の煙の正体は、煙管を吹かす彼らの主であった
「さて、報告の時間だ。あれはどこにある」
手下らは、主を取り囲むように周辺の地図を広げ話を始めた
「おいら達とこいつで調べた結果ですが、このあたりが怪しいです」
「この森は妖怪が多くいました。何かに誘き出されるように集まってきたと思われます」
「ふむ、それだけ範囲が狭まっておればよいか」
「あれを使って何を守るのですか?」
「・・・ほぉ、習得する知識を間違えたようだな。わしに歯向かうとどうなるかわかっておるか?」
「歯向かってなど・・・」
「式神の存在で自分の意志を持ちよってくだらん!主を失った式神がどうなるか思い知りたいのか!」
「・・・主を失う?」
「おいおい、お前その辺にしておけよ」
「そうだぞ、おいら達にも火の粉がくるっ」
「失礼しました。慎みます」
「ふん、久しぶりの煙管が砂の味だ」
「それじゃ、ぬらりひょん様〜さっそくこのあたりから−・・・」

 先ほどの言葉が木霊して、朱の盆の話が頭に入ってこない
 ・・・主を失う、主がいない
 つまりそれは自分の命を自分で決められるということなのだろうか

「ということだ。おーい、鬼太郎聞いてたか?そろそろいくぞー」

 この先、僕は自分の生き方を変えられるのだろうか

*


とある静まり返った繁華街を警邏隊が巡回している
「ここ数年で、この辺りはほんと静かになったな。やっぱ理由はあれか?」
「そうでしょう。あの天下の木下組が姿を見せなくなってからだって。多発していた事件がまったくといっていいほどなくなった。詐欺も減ったし。」
「大きな組織で摘発が難しかったっていうのにな。どこの管轄か知らないけど相当な手柄だ―・・・」

『本部より本部より。付近の神社へ侵入者の目撃あり、至急急行せよ』

「あれ、またですね。ついこの前も同じようなことがあったような」
「でも荒らされたり何かが盗まれたりはしてないんだよな、目的はなんだろうな」
「さっさと終わらせて、一杯やりましょう!」
街の治安を守るため、彼らは侵入者の追跡を開始したのであった


*


とあるボロアパートにて
「俺はお前にこの世の生き方を教えてやってんだからな!」
「俺は頼んだ覚えはない」
「くぅ〜可愛くねえな!ここ数年ますます可愛くね!もうこねえよ!勝手にしろ!」

バタン!!

背の高い痩せの男は、捨て台詞を放ちながらドアノブが簡単に取れそうな薄い扉を勢いよく開け、薄暗い街に姿を消していった
「夜も更けてるのというのに・・・もう少し静かに帰ってくれないものか」
アパートの主は、正論を言いながら静かに扉を閉め、食べかけの夕飯を平らげる
「人様の飯を狙ってくるとは・・・また何かやらかしたんだろうな。ねずみ男らしいや」
5年前と何もかも変わっていない男と、落ち着いた声と容姿がだいぶ大人びたアパートの主、戸田

 この長い年月で、戸籍をつくり(作ってもらい)住処も得た
 簡単な仕事もこなし、最低限の生活ができる稼ぎも得た
 ねずみ男にこの世界に順応する生き方を教わったことは大きい
 でも、それはそれ

「さてと、もう一仕事してくるか」

 どの時代でも俺の生き様は変わらない




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