※漣-さざなみ-


老巫女の社を去った後、南へ下り、薩摩、筑後を経由して陸奥、そして…
幾度なく見てきた景色へと辿り着いた
「懐かしいな…何も変わってない」
清らかな川が流れ込む田園と、その中に佇む茅葺の住まい
瞳に映りこむそれらは、楽しかった里での想い出を簡単に呼び起こした
人目を忍び、山々の高木から里の木々へ移り飛ぶと、枝の隙間から里の様子を覗き見る
「あれ?総出でどこかにいったのかな」
木から地上へ飛び降り歩きなれた道を歩くが、誰も居ない里は不気味なくらい静まり返っていた
「なんだか気味が悪い…」
そのまま足を進め、以前住んでいた自分の家に立ち寄ると、釜戸には火がくべられ釜から湯気が立ちこめていた
「釜に小豆?…祝い事でもあったのかな」
ここにも住人は居らず、何故か衣類だけが部屋に散らかっていた
「これは…どうゆうことだ…」
ついさっきまで着ていたかのように生温かいその衣類
それらを手に、過去の記憶を探ろうとしたその時だった

 バダン!

「きっ鬼太郎!?」
「!?ど…童子!」
家の扉が大きな音を立てて開き、懐かしい人物が一際険しい表情で戸田を睨みつけてくる
「突然いなくなったお前がなぜいる!まさか…これは全部お前の仕業か!」
「童子!違うんだ!僕は何も知らない!」
「おかしいと思ってたんだ。この土地を愛していたお前が抜け忍になるなんて!俺はいつか帰ってくると信じてたのに…全てはこうゆうことだったのか!」
「ちょっと待ってくれ!僕は何も知らないんだ!」
「うるさい!皆の敵、俺がとる!」
地獄童子は戸田を一方的に攻め立て、素早い攻撃を仕掛けてきた
しかし、争う理由がない戸田は、急所を積極的に狙った攻撃を避けるのに精いっぱいだった
里の地形を利用して変わり身の術を使いこなし、行方をくらましてひたすら逃げ続けた
「どこだ!どこにいった!!出てこい!鬼太郎!!俺はお前を死ぬまで追い続けるからな!」
「まいたか…一体何が起こっているんだ」
里から全ての生気が消え、気持ちが狼狽しているのは戸田よりもむしろ地獄童子のようだった
幹に寄りかかり上がった息を整えながら瞳を閉じ、昔、里長の家で開かれた会合の様子を脳裏に浮かばせた

 着ている衣を残して人だけが消えるんじゃ
 狙われた里は、西の方角に位置する3つの里なんじゃが…
 お前たち、陰陽師とやらを知っとるか?
 その昔、呪術を得意とする闇の陰陽師がおってな
 その存在を都から追いやった行政の雇われ忍らがおったんじゃ
 案の定、彼らは行政の代わりに闇の恨みをかってしまい 
 同じ里の忍らにまで災いが被るようになった
 それからというもの生き残った彼らの子孫は領主の配下を好まず
 己の“果たすべき目的”を全うする生き方を選んだのじゃ
 わしらの様にな…
 
「これが闇の力か…探し出して滅してやるっ!」
己が導いた答えを胸に、自然と身体が向かった道へと進んだ


*


岬の古木に2人の影
互いの名を呼び合った後、ユメコの身を抱き寄せながら戸田は
「僕の里が闇の陰陽師にやられた…情けないよ。こんな日が来ないようにするために里を出たのに…あんなに必死で自分たちの情報を集めてたことを僕は忘れていた」
「…」
顔を伏せながら淡々と話し、唯一収集しなかった忍の情報を悔やんだ
そして、自分の決意を声にした
「…里の皆を連れ戻すために、僕は闇の存在と戦う!」
「…」



暫く無言の時間が過ぎ、聞き役となっていたユメコが口を開いた
「…鬼太郎さん…私、これからは鬼太郎さんと一緒に行動するわ」
「何を言うんだユメコちゃん!そんなの駄目だ!」
ユメコの両肩に手を置き、顔を見合わせてつい声を荒げた
「私の流派も配下に属していないわ。だからいつかは狙われるでしょう。でもしっかりした弟がいるからきっと大丈夫。もし危険な目にあったら、鬼太郎さんが助けてくれるでしょ?」
「もっもちろんそうだけどっ…//…でも」
「もう決めたの!私、鬼太郎さんと一緒に生きたい」
「・・・わかったよ。ユメコちゃん、前から思ってたことがあるからこのまま聞いて。この戦いが終わったら僕と一緒になろう。まだまだ未熟な僕だけど、ユメコちゃんを絶対に幸せにすると誓うよ!」
「…鬼太郎さん…//…本当?私…すごく嬉しいわ」
成長期を迎えた2人にとって、いつもの場所がいつも以上に窮屈と感じた瞬間だった


*


この歳月で戸田は滝壺に身を休める小屋を幾つか建てていた
最低限の生活を送るその小さな空間には、寝床と囲炉裏のみ

行動を共にすると決めたその夜、2人はその空間に来ていた

弾力性のある敷料の上で、月夜にさらされた柔肌の上に硬肌が重なる
「暫く合わない間にすごく綺麗になったね…」
「鬼太郎さんも…こんなに逞しい身体をしていたのね…」
熱い疼きに狂わされた青少年は卑しく淫らで、そして、貪欲だった
柔らかく弾力のある内壁が、繋ぎとめる存在を食いちぎらんばかりに締めつける
野生に戻った身体は子孫を残す行為を繰り返し、無二の存在を求め続けた


*


とある忍里では、里長に扮した闇の主が手下の様子を伺いにきていた
「どうだ、順調か?あとは頼んだぞ」
「お任せください。皆、我々をこの里の者と信じ切っています故…」
その手下は口元を覆っていた装束を指でずらし、不気味な笑みを主に見せつけた


里を早々に立ち去った主は、移動に使用している横穴式の鍾乳洞を手下の1人と歩いていた
「式鬼が近江の湖畔に溢れ返っておるそうだな…もう少しだ。あとはここの娘と、あいつだけ…」
「式鬼って、おいらたち式神と何が違うんですかね。そもそもなんで、忍ばかり狙うんですか?」
「ほぉ…お前にも疑問とやらが浮かぶとはな。今日は気分がいいから教えてやろう。わしは知っとる。あやつらの完璧な暗殺術と手段を選ばない非情さを…配下にするにはもったいないくらいだ…」
「…えっと…つまり、素晴らしいってことですかね?」
「…まぁ、そう思っててよいわ。帰るぞ朱の盆。これからが正念場だ」
闇の主が訪れる忍里には、不思議と雨が降らなくなり、里の実りは朽ちていくばかりだった


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