46.5話  叶わぬ手





「わしが家まで運んでやろう」
「すまんのう 子泣き爺」
ぐったりとした鬼太郎を抱きかかえ
一反もめんに跨る

「鬼太郎は大丈夫なの!?」
今にも泣き出しそうなネコ娘が駆け寄る

「大丈夫じゃよ…そうじゃネコ娘 回復を早める薬草を採りに行って来るかのう」
「行くわ!!早く行きましょう!!」
「おやじ殿 先に戻っててくれぬか」
居ても立っても居られないネコ娘の気持ちを察した砂掛け婆はネコ娘と共にその場を後にした
「頼むぞ 砂賭けネコ娘」
「それじゃ 出発するばい」
鬼太郎と子泣き爺 目玉おやじを乗せ一反もめんは横丁へと急いだ


鬼太郎の家に着くやいなや布団を敷き鬼太郎を寝かせた
「すまんのう」
「なに これしきのこと」
「…はぁ…ぅ…」
体力が少しは回復するかと思われたが地獄の鍵の影響なのであろうか―
先ほどよりも顔色が悪く呼吸もか細い―
一向に回復する気配が見られなかった
「薬草はまだかのう」

 カァーカァー バサバサ

なにやら外が騒がしい
「今戻ったぞ」
「おぉ 待っとったぞ 砂賭けや」
「これを煎じて飲ませるんじゃ」
「あたしがやるわ」

「・・・すまんのう」

返事をする目玉おやじの声も応える毎に小さくなっていった

「体温も上がってきておる」
「薬草が効いてきたのね」
「今日は大丈夫そうじゃ おやじ殿もゆっくり休むんじゃぞ 明日またみんなでくるからの」

「すまんのう…今日は助かったわい」


「・・・ハァ・・・」

みんなを見送った後一度だけ小さな溜息を吐き家の中へ戻った


「鬼太郎…」
呼掛けにも応じない息子を心配そうに覗き込む
「わしには…これしか出来ん…」

世話をすることも抱きかかえる事も叶わぬその小さな手は
今はそっと―
頬を撫でることしか出来なかった



その日の丑三つ時 鬼太郎は目を覚ました
「夜―っ!!」
起き上がろうとしたが思うように身体が動かず声も掠れてうまく言葉が出ない
「とぉ…さん…?」
なんとか上半身を動かし父を探す
「あっ…」
肘を曲げ万歳をしたような格好で仰向けに寝かされていた鬼太郎の右手に何かが触れている
「父…さん…」
目玉おやじは鬼太郎の親指を抱きかかえて眠っていた

右目を見開き父を見つめると自然と安堵の表情が浮かぶ
閻魔大王の命令 父の助言が念頭に在りながらも自分の倫理観で行動したことには後悔していなかった
しかし自分の力量を計り知れなかったことに対し苛立ちを感じていた
「…ぅ…っ…」
自然と涙が溢れてくる
右手で父に触れようとするが思うように力が入らない
「…父さん―」
痺れのような感覚の中4本の指で軽く包み込む

ふっ…と幸せそうな笑みを浮かべながら鬼太郎は意識を手放した


再び深い眠りについたころには

窓の隙間から薄明かりが漏れていた―




翌日―

地獄の鍵を使用した罰として石積の牢獄へ向かうこととなった

「大丈夫です すぐ戻りますよ」

そうみんなに告げ横丁を後にするのだった






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