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大学院を卒業した僕は製薬会社の情報担当者として就職した
非常に多忙で、でもやりがいがあって
あんなに苦手だったPCも今では僕の相棒としていつも持ち歩いている

今日は、車で医療機関へ定期的に訪問する日
見慣れた場所だなぁと思って、ふとナビをみてみると自分が通学していた大学付近だった
ちょうどスムーズに訪問もこなしたことだし
「ちょっと教授に挨拶でもしてこようかな」
と、数年ぶりに配属されていた教室へ行くことにした

 トントン…

通いなれていた教室だから特別緊張はなかった
けど…
「こんにちは…って戸田くん!?」
「えっ!あ…ええ!!?」
教室内にいた人物に目が見開くほど驚かされてしまった


*


僕よりも数百倍忙しい生活を送っている山田教授はやっぱり不在だった
教室にいたのは助手の戸田くんと数名の大学院生だけだった
戸田くんは僕を応接室に案内するとお茶とお菓子を差し出し、客人のようにもてなしてくれた
「今日はどうしたんだい?」
「あ、いや…ちょっと近くまで来たから教授に挨拶にきてみたんだよ」
「そっか〜いまちょうど海外出張中なんだよね」
「そうなんだ。相変わらず忙しいんだね」
「ほんとだよ…だから僕はまだなにも教わってないさ。早く研究がしたいのにさ」
「…ふふ。なんか不思議だな」
「不思議って何が?」
「だって戸田くんが僕のいた研究室に勤務してたなんて」
「僕だってびっくりだよ。まさか予備教の化学の先生がここの教授だったなんて」
思えば戸田くんと話すのも卒業以来
気が付いたらここ数年の自分達の話に小一時間花を咲かせていた
「そういえば、戸田くんは今もゲームをよくやるのかい?」
「いや、今はやらないんだ。昔はあんなにのめり込んでいたのが不思議だよ」
「そうなんだ!人ってかわるんだね。研究はまだみたいだけどどんな研究がしたいの?」
「おっ!聞いてくれるかい?僕はね―…」


***


僕が小さいとき、僕の幼馴染は、今の医療じゃ治せない感染症を患っていた
でもね、先生は言うんだよ
効果があるかもしれない薬があと5年で完成するらしいって
だからその子の親にかわって僕は言った
5年たったらその薬を絶対使ってって
そしたら、先生は何も言わなくなった
僕はバカだからさ、使ってくれないの?って言ったんだ
先生は僕にしか聞こえないくらいの小さな声で、その子の寿命が5年以内だからなにもできないんだよっていった
僕はやっぱりバカだからさ、思ったことを言っちゃったわけ
5年くらい冷凍保存とか―…って言いかけたら、そこにいたみんなにビンタされた
その時、僕はなんで叩かれたのかわかんなかった
だって、その子を救う方法は5年先までまたなきゃだめなんでしょ?
何も言わない大人たちに僕は痛みよりも怒りでいっぱいだった

その翌日から僕は幼馴染と一緒にゲームで遊ぶ毎日を過ごした
RPGの主人公にはその子の名前を必ず付けてプレイした
ゲームオーバーしてもやり直しできるし、HPが減ったら回復アイテムで全快になる
現実には存在しないけど、そんな主人公のようになってほしかったから

絆を失った後も、僕はゲームをし続けることで心をつなぎとめてた

そんな歳月の中でちょっとだけ賢いバカになった僕は、この国にない薬が外国では数年前から使われている事実をあるニュースで知った
学校の授業で薬は化学合成で作られるって知った
だから、化学をとことん勉強して世の中に新薬を造り出している偉い人からたくさん学んで、新しい薬をみんなのために造りたいと強く思うようになった


***


「僕はね、化学の力で人の命を救いたいんだ!だから難病に効く新しい薬の開発研究がしたい!」
「へぇ〜すごいじゃないか!戸田くんの熱意だったらきっと成功すると思うよ」
「そう?まぁ、熱意と本音だけは誰にも負けないね!」
そんな戸田くんの熱い想いをたっぷり聞いて僕は研究室を後にした

運転席に乗り込み、少しだけ考え事をした後にエンジンをかけた
握ったハンドルが案内した先は、昔住んでいたアパート
築年数が自分と同い年ということもあり、入居者は数名だけだった
自分が暮らしていた部屋には誰も住んでいない様子
あの当時と一緒で共用スペースにある個人用のポストには、少し色あせた怪しい広告や宅配ピザなどのチラシで溢れかえっていた
ちょっと懐かしい光景だったから、ポストの奥には何年前のチラシがあるのかと思いゴソゴソと手を突っ込んでみた
しかし、思ったほどチラシ類は奥に詰まってなく、一番奥には茶封筒の封筒がはいっていた
「なんだ…この感触?CD?あれ、これって前にもこんなのあった気がする…」
頭の片隅にある記憶を引き出しながら、不思議な封筒を手に帰路に着いた


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