【欲】@



昼間のゲゲゲハウス内
いつもは賑やかな空間だが、今日は小さな虫ですらも息苦しいと感じるくらい重い空気が漂っていた
その理由は簡単
家の中に卓袱台の上で仁王立ちしている目玉おやじと、その向かい合わせになるように顔を下げ正座をしている鬼太郎の姿があったからだ
2人の様子からすると、鬼太郎がなにかよろしくないことでもしたのであろう
おやじは大きな溜息を交えながらゆっくりとした口調で話し始めた

「鬼太郎…」

「お前は…とほほ わしは情けない」

「本当に…」

「何てことをしてくれたんじゃ!」
「!!・・・」

「うぅ……ひっ……」

「うわぁぁ〜ん…」

小さな体から発せられた言葉は、幼い鬼太郎にとって父としての威厳を明確に現すこととなった
しかし、受け入れることの出来ない息子は、ただただ泣き叫ぶことしか出来ない
口を大きく開けながら―…
大粒の涙を零しながら―…

「……鬼太郎…」
「うわぁぁぁぁんんん><。。。。。」

あの穏便な父がこれほど怒ってしまった原因
それは、鬼太郎がある過ちを犯してしまったことであった


****


つい先日の話
鬼太郎が1人で横丁を歩いていると

「あ!ねずみおとこ!」

鬼太郎は今までずーーーっと探し続けていた「友達」をやっと見つけ、ねずみ男の元に駆け足で近寄った

「お?なんだ、お前もここに住んでたのかよ」
「ねぇ 家はどこにあるの?」

零れ落ちそうなくらい目を見開いてジーーー…っとねずみ男の顔を覗いている

『…可愛いな』

こんな不潔な大人も思わずそう心の中で思ってしまうほど、鬼太郎の瞳はキラキラと輝きを増していた

『……おっと、それよりも仕事だ!』

何か心が揺るぎそうになったのか
ねずみ男は顔を左右にブンブンと振り、顔つきをいつもより1割増しにして、鬼太郎の肩に手を添えながらその場にしゃがみ込んだ

「そんなことよりよ!面白い儲け話があるんだよ!」
「もうけ? うわっ!」
「俺についてきなーー!」

簡略な話をされた後、ねずみ男は鬼太郎の身体を軽々と持ち上げたまま灯篭を潜り横丁を後にした


*


行き着いた先は

「なに?これ」
「なにって人間たちが集まっているのさ」
「!!!!!!」
「こらこら!俺の上で暴れるんじゃねーよ」
「いやだっ……!!にんげん!いっーや!!」

ねずみ男の肩に跨って暴れ出した鬼太郎であったが、力の差は歴然
大の大人に両足を掴まれた幼子は、そのまま人間だけの空間に紛れ込んでいった


強引にある場所へ連れてきたねずみ男
ある建物の前に着いた2人は、そこの警備員の案内で奥の小部屋に通された
椅子と机しかない小さな部屋
ねずみ男が部屋の備え付け電話で誰かと話をすると、すぐに部屋の扉が開き女性が飲み物を運んできた

「ほれ、飲みなよ」
「……のむ」

ちゅーー

不機嫌だった鬼太郎もオレンジジュースの誘惑には勝てなかった
鬼太郎がジュースに夢中になっている間、部屋に色々な機器が運び込まれ、そのコードが入り口の半分を塞いでいた
そんな状況を気にすることなくねずみ男がある行動をし始めた

「なぁ!鬼太郎」
「んん?」  チューー
「お前は幽霊族の生き残りなんだよな!」
「うん!」  チューー
「俺によぉ、その証ってのを見せてくれね―かなって思ってさ」
「?よくわかんない」  ズズズズー…
「んなこと言わないでよ、鬼太郎ちゃん」
「だって…僕そんなの知らないもん」  ………

ねずみ男の質問にジュースを飲みながら答える鬼太郎
その甘い飲み物が尽きた瞬間

パシャ! パシャ!!

「!!!うあぁああああ!!」

突然現れた無数の光に驚いた鬼太郎はその光から逃げようと、1人で部屋を出て行ってしまった
ねずみ男は後を追うことなく、顎に手をあてながら髭をビビビっと震わせているだけ
なにに満足したのであろう
その答えのヒントは先ほどの光

「はいはい、皆さん!こいつの後を付けていくと面白いものに会えますよ〜これさえあれば、当分ネタには困りません!この俺が保障します!!あ、情報料は先払いね〜」

扉の前にはカメラや手帳を手にした大勢の人間たちがいた
彼らはねずみ男の話を聞くと迷うことなく金を差し出し、一目散に横丁へ逃げ込む鬼太郎の後を追い始めた
そんな彼らの瞳は、妖怪を怖がる…のではなく、まるで金塊を見ているかのようなギラギラとした嫌な輝きをしていた

「悪く思うなよ、鬼太郎 ビジネスはやったもん勝ちなんだぜ!うっはーー!!!金だ!!金!金ぇ〜!!」


*


場面は妖怪横丁

「とうしゃ〜ん!!!とぅ…ゲホゲホっ…とうしゃ〜ん!!!」

全力疾走で横丁に戻ってきた鬼太郎
ちょうど長屋の前に差し掛かった時

「おや?どうしたんじゃ鬼太郎?」
「あ!砂かけのおばば!」
「おやじさんならちょっと出かけとるぞ?」
「ええ!やだぁ!とうしゃんに会うの!!」
「どうしたんじゃ?変わりにわしが聞いてあげるからのう 我慢しておくれ?」
「…うん ……あのね!」

と、今日の出来事を話始めようとした時

「おばばーー!!大変だよー!!」
「ど、どうしたんじゃ!呼子!」
「人間の大人たちが大勢横丁にやってきたんだ!!」
「なんじゃと!?ん?鬼太郎?」

呼子の声に反応した鬼太郎は砂かけ婆の身体にギューとしがみ付いた
その様子から何かを察した砂かけは長屋の奥に鬼太郎を隠し、呼子と共に人間たちの元へ向った

『妖怪って本当にいるんだな!!』
『これはイイネタになる!おいカメラ回せ!』
『……妖怪は変な町を作って暮らしている…っとφ(.. )』
『おい!なんか婆と一本あしの妖怪が走ってきたぞ!!』
『わぁゎ!なんか怖そうな顔だ!あの表情からするとちょっとやばそうだな!』
『そうだな!場所はわかったし、また明日にでもしよう!』

ドドドドドー!!!!

「なんじゃ?皆、一斉に引き返していきよったわい」
「なんだったんだろうね あ!鬼太郎なら何か知っているかも!」
「そうじゃの 戻って聞いてみるとするか」

と、この時は何事もなく済んだと思った2人であった



長屋に戻ると

「おや?奥から出てきたのかい鬼太郎」
「うん とうしゃんがむかえにきたの」
「そうじゃったのか」
「迷惑かけたの〜砂賭け婆」
「いやいや それよりも鬼太郎や さっきの人間たちなんじゃが―…」
「その話なんじゃが―…わしら親子で話し合いたいことがあるんじゃよ」
「そうじゃったか まぁ、追い返したからもう心配はないと思うぞ しかし何で横丁に進入してきたんかのう」

高山たちは長屋を後にし自分達の家に戻っていった


*


「鬼太郎?」
「はい とうしゃん」


「わしは全てを知っておる」
「?」


「人間にわしらの秘密が知られてしまったようじゃ」
「!?そんなことしたのだれ!?ぼく、ずっとここにいたいのに!」


「鬼太郎………残念じゃが……………お前なんじゃ」
「ぇえ!?」


「……とほほほ……」




鬼太郎の犯してしまった過ちとは
幽霊族の秘密と妖怪横丁の存在を人間界に洩らしてしまったことであった

頭の固い地獄の役人が、鬼太郎の引き起こしたこの大事件を黙って見ている筈は無かった






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