「で、お巡りさんがこんなところで何してんの」
「そりゃあ決まってんだろ…ちょっとしたあれだ」
「あれって何」
ヤツは半目に俺を眺め、胡散臭そうな様子を隠そうともしない。この様子だと最初から気付かれていたらしいと見える。世間話を盗み聞いた時からか、エレベーターに躓いた男を鼻で笑った時から、もしくは火をつけたばかりの煙草を踵で潰した時から。
「…てめえこそ何してやがる、ご婦人方に大人気ときちゃァ、こんなもん貰う側だろうよ」
「まったく天下の真撰組様がよく言うぜ」
俺が手持ち無沙汰に手に取った薄緑色の箱を、ヤツはこれ美味そうだな、誰かくれねーかな、などと目敏く品定めしている。俺が後をつけたのを特に気にしている風でもない。その箱にはミルクティーを彷彿とさせる淡い色のリボンが巻かれ、箱の隅に英字の刻印が押されていた。次いでヤツが手にしたのは細長い箱だった。次は丸い箱。四角い箱も見た。そうやって際限なく物色し、俺はただヤツの屈んで丸くなった背中を見ていた。
「これどう思う」
何の前触れもなくずいと差し出されたのは、深い紺色の包みが他とは趣を異にする、華やかさよりも落ち着きのある小さめの箱。中にはビターチョコレートが九つ。ヤツが俺の顔色を伺っている。
「まあ、あれだな。本命がいないんじゃどうしようもねえだろ」
至極全うなことを言ったつもりが、ヤツはぽかんと口を開けて俺を見つめたまま動かない。俺の方は本命なんぞ文字通り"いない"などということはヤツも承知の事実であるし、ヤツの方こそ気の置ける幾人かに慕われているのを知ってか知らずか、この歳になってもそういう女を作ろうともせず、いいご身分なことだ。そういう意味も含め、ちょっとした皮肉をくれてやったつもりなのだが、しかしヤツは何を思ったのか、大方俺の自慢話と受け取ったのだろう、小憎たらしく眉をひそめるその様は、まるでチョコレートを一つも貰えずに不貞腐れるガキのそれと変わらない。嗅ぎ慣れない匂いに俺がその一角を後にしようとすれば、ヤツがいきり立ったように俺を追い、横に並んだ。癖の強いもさもさ頭。デパートなんぞ似合わない。
「てめえほど嫌味な野郎がいたとはなァ、土方くんよお」
「何とでも言え、八方美人野郎」
「それ誉めてんの?けなしてんの?」
「けなしてるに決まってんだろーがよ」