わたしの唯一
遊びに行こうと誘われた。電話の向こうで彼は言った、お前しか友達いねえんだよお、拗ねたような口調が情けない。彼が私のことを友達と言うまで、私は彼をそう認識したことなどなかった。そんなのって、押し付けがましいし、一人で思い上がってるみたいだから。電話がかかってきたときは何用かとちょっとどきどきした。電話を終えて、悪い気はしなかった。 私も彼と同じように暇で仕方無くて、だけどそう思われるのは甚だ不本意だったから、その日は用事があると嘘をついて翌日の午後なら暇だと答えた。別にその日だって何もすることはなくて、翌日の午前中でも構わなかった。私だって朴さえいればこんなに退屈な夏を迎えることにはならなかったのだ。彼女は実家に帰省してお盆を家族で過ごし、地元の同級生たちと会うのだという。その日の夜、私は顔をパックしていつもより余分にボディークリームを塗りたくった。絶対に見えないけど、背中のうぶ毛もきちんと取り除いた。ネイルをしようか迷って、結局やめたのは賢明な判断だと自負している。だって私たち、友達だもの。ネイルは恋人のために取っておかなくてはならない。私はいそいそと布団に潜り込んだ。ベッドの中から掛け時計を見ると、もう一時だった。



「うわ、負けたー!」
「あんたがへたくそなのよ」

彼が心底悔しそうに声を上げる。此方に向かってくる画面の中のゾンビを、ちゃちなピストルで手当たり次第にやっつけていくゲーム。私は初めてだったけど、このゲームが一番面白いのだという彼に大差をつけて圧勝した。だって彼ときたら照準も定めないままめちゃくちゃに撃ちまくって、それにゾンビが不意打ちで現れるたびに腰が引けているのだ。私はベンチに座って彼の後ろ姿を眺めた。まだ納得がいかないらしい。画面の中で点滅するゲームオーバーの文字に文句を言う、その背中が猫背気味で、子供みたい、そう思った。私たちは寮から一番近いショッピングモールのゲームセンターに、かれこれ三時間以上も居座っている。UFOキャッチャーで大量に取り出し口に落ちてきた体に悪そうな駄菓子を食べながら、コインをとったり、スロットゲームをしてみたり、ゾンビを倒したり、ベンチで休憩しては塾の先生たちを話の種に笑ったり、彼とダブルスを組んで画面の中のテニスプレイヤーに勝負を挑んだりした。(結果は惨敗だった。)

「勝呂たち帰って来るな、明日」
「へえ」
「しえみも明日は店番じゃねえって」
「…ふうん」

彼が私の隣に座って、サンダルの両足をぶらつかせる。相変わらずの相槌しか打てない私だけど、今日は楽しかったって、そう伝えられるといい。早く明日になんねえかなあ、くすぐったそうに笑う彼は、誰彼の友達。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -