独り遊びが御上手
露店で気まぐれに買った白桃は産毛のようなものがばさばさと気持ち悪くて、触るのさえ躊躇われた。薄く染まってはいるが些か早摘みらしく、熟れるまでもう暫く待とうと言ったのを、しかし彼女はしかめっ面で答える。食べてしまった後でその種を庭に埋めるつもりらしい。桃栗三年柿八年、彼女はそんな日本の言葉を知っているのだろうか。コーラルオレンジをしたミニドレスはてかてかと安っぽくて悪趣味極まりなかった。彼女の知性を思わせる切れ長の瞳さえもが何処かとろとろとシンナーか何かに蕩けたようになっている。あの下品な色がいけないのだ。きっとどうしようもなく頭の足りない男が彼女に贈ったに違いない。俺なら彼女に毎日青みがかった深緑の着物を着せて、毎日その帯を締めてやるのに。ろくでなしが贈ったであろうドレスを俺の前で着るハルもろくでなしだ。フローリングをてってと駆け回り、夜遊びするわけでもなく俺の部屋に引きこもっている。ろくでなしはとても楽しそうだ。

「何やってんだあ、ハル」

床に座り込んで下を向く彼女の肩甲骨がくっきり浮かび上がって、それが此方をどうにも悩ませる。彼女は何も言わずに含み笑いを零した。手元には群青のクレヨンで恐ろしく丁寧に塗り潰されたノートの切れ端、先程カーペンターズを口ずさみながらナイフを滑らせた桃が二切ればかり、脱ぎっぱなしのストッキングは電線していて、そんなものが彼女を取り巻いている。

「まあいいか、なあ?今日も夜遅くなるから先に寝てろお。間違っても外に出るんじゃねえぞお」

毎晩言い聞かせる台詞を棒読みしながら俺はふと気付いた。彼女が幾ら外に出たいと願ってもそれが叶うことは決してない。こんなことを考えているうちにも俺は部屋のドアノブに引っ掛けた南京錠をがちゃがちゃと揺すっては、大事なろくでなしを逃がすまいと何度も鍵をかけたことを確かめずにはいられないのだ。


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