「ハルさあん…」
突然やって来たと思ったらインターフォン越しに泣き顔を晒す俺を、しかし彼女はあらあらと玄関のドアを開けて家に招き入れた。この両足が勝手に彼女の家に俺を連れて来たんだ。苦し紛れの言い訳を彼女は適当にあしらって、四角い絆創膏を見るなりハンカチをくれる。
「さては注射してきたんでしょうランボちゃん、アンビリーバボーです!よくがんばりましたねえ、ハルなんかもうお医者さまが怖くって怖くって…」
だけど呪いの言葉を吐いたことはないだろう。そう皮肉を言おうとして止めた。彼女は病院がいかにおそろしいところなのかを俺に言い聞かせながらもケーキと紅茶をお盆に乗せている。
「ハルさん、俺帰るよ」
「はひ?もう帰っちゃうんですか?」
「うん、家の鍵俺が持ってるんだ。ママンが中に入れない」
彼女は来た時と同じようにあらあらとエプロンを脱いで俺をお見送りしてくれた。角を曲がって見えなくなったところで絆創膏に触ってみると、真っ赤に膨れて鈍い痛みを感じる。ケーキはこれが治ってからだ。