「雲雀さん、これを読んだことは?」
「ないけど」
「じゃあどうしてこれをハルに読ませたりなんかするんです?」
「いやだった?」
「ちっとも面白くありません。名前が長すぎて覚えられないうえに、この女の子―――とってもふしだらです」
彼女はその女の子の名前を思い出そうとして、幾らか頁を捲って探す素振りを見せたが、結果わからないままに終わった。肝心なことを言うと、彼女はあまり文字が得意でないらしい。文章を書くのが苦手だと言った。幼稚な話し方から幾分見当はつく。そのくせ数字にはめっぽう強い。僕が放り投げた数独パズルを、ものの二三分でそれも鼻歌交じりに解いてしまった時にはさすがに驚いた。知的と言ってもそれが木陰で黙々と書物を読むような類ではなく、何か目を離したすきに良からぬことを閃いてそれを見事にやってのけてしまうような、そのような危険を孕んだ頭の良さを、彼女は生まれ持っていた。それがハルだった。
「ツナさん家に行きましょう、炬燵に入ってぬくぬくしに」
「嫌だよ、あの家はうるさくって敵わない」
「もう本は読みませんよ、ハル」
そしてその類の頭の回転の良さを、僕は疎ましく思っている。