彼とはよいお友達です
鯖の味噌煮の缶詰を箸でつつきながら、彼女が首筋の汗を拭っている。俺が見ていないとでも思っているのだろう、その持ち方はひどくでたらめだ。ベッドに寝っ転がって彼女の背中を眺める。必死だった十九の頃熱く見つめたそれはもっと痩せぎすで、想像した女っぽさとはかけ離れていたのを思い出す。

「あんたも食べる?」

振り向きもしないまま彼女が言った。特に返事を期待してるでもないのかごくごくと機械的にスポーツドリンクを飲み、魚油の滴る鯖を掻き込んでいる。彼女の目の前にはそれはそれはたくさんの食品が並んでいて、彼女はそれを一口ずつリレーの様に食べ比べる。セックスの後はいつも、こうして普段の栄養不足を補うみたいにするのが、俺はどうにも好きになれなかった。

「体に悪そうなもんばっか食ってんのな」
「いいものばかりよ。ハンバーグはトウフ79%、アイスクリームはシュガーレスだし…このレトルトパックだって添加物ゼロ!」

普通の女より遥かに余計なものの少ない体を、しかし体重計に乗せなくなったのを俺は黙ったままその背中にすり寄る。湿った皮膚は気持ちが良い。両手に食べ物を持っているからいつに増して胸元が無防備だ。

「ん………ちょっと、ねえってば」
「けどさぁビアンキ、なんかやわかくなったのはなんで?」
「……も、やめてって言ってるでしょ」

キャミソールの下に手を突っ込むと、彼女がようやく箸を取り落としたのかからんと軽い音が聞こえる。

「俺思うんだよな、好きになって手ぇ繋いでキスしてセックスして、それってすげえ生産的っていうか、過程的じゃん」
「あ………」
「けどそこまでいったらさ、もうそれ以上はなくてよ、恋じゃなくなるっていうか」

床に組み敷いて髪を撫でると、目を瞑っていた彼女がふいに俺を見上げた。

「………じゃあ、私があんたに感じてるのは、何なのかしら」
「うーん…ラブ?」

鯖やトウフやそんなものがたらふく入っているとは到底思えない、平べったな腹をくすぐってやる。切ない声色が俺の脳みそをぐらつかせて、溜め息を吐いた。安っぽいラブね、目を閉じてから彼女は言った。


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