「そうねえ、新ちゃん」
姉は口を開いた。
「驚くかもしれないけれど…だけどきっとうれしいわ」
そして言うと、にっこりと口角を上げて、おやつにしましょう、と付け加えた。姉は軽やかに台所へ向かう。今にも走り出してしまいそうだった。幼子のよう。僕の、実の姉に対するには行き過ぎた、疎ましいほど重い言葉から、姉はするりと逃げ仰せたのだ。その顔には笑みをも浮かべて。僕の言葉は女の子なら誰もが羨むような、陳腐ではあったが耽美な言葉だった。しかしそれは実の姉へと向けられた途端、薄ら寒い狂気に成り代わる言葉でもあった。八朔の汁で両手を汚しているだろう姉に、僕は足のすくむ思いがした。