男の子ってみんな馬鹿
コンビニに寄ると猿飛さんが会計を済ませていた。2リットルのダイエットコーラとノンフライのスナック菓子。俺が似たようなお菓子を買うのを、彼女はコンビニの外で空を見上げては待っていた。二人並んで歩き出す。派手なショップ袋の中には日本史のプリントが山程詰め込まれているらしい。平日と変わらないスカート丈。いつも黒いゴムで結ばれている後ろ髪に、今日はチェック柄のシュシュだ。土曜日なのに俺たちは好んで制服を着て、一緒にいて、それからすぐに沖田の家に着いた。

「ゆっくりしてってね」

呼び鈴を鳴らすと、エプロンをつけた沖田のお姉さんが出た。山崎くんこんにちは、久しぶりねあやめちゃん。俺はこんにちはと返し、猿飛さんは黙って会釈した。盆に葡萄ジュースを持ったお姉さんに、二階の沖田の部屋に通される。ウェルチだ。猿飛さんががさごそと、ダイエットコーラの入ったコンビニの袋を鞄に突っ込んだ。

「はは、猿飛さん、顔引き攣ってる」
「うるさいわね」
「苦手オーラ出しまくりじゃん」

部屋のドアが閉まるなり、俺が耐え切れずに笑うと、猿飛さんは気まずそうに視線を逸らし、ベッドに腰掛けてポータブルゲームに興じていた沖田が口を尖らせる。

「何でィ、お前、昔は俺の真似してお姉ちゃんお姉ちゃんって懐いてただろ」
「でも前とはもう違うじゃない。大学生だし、敬語だし。大人の女の人って感じがして、別にミツバさんに限らず、…年上の女の人って苦手なの」

沖田がグラスを手に取って、ちびちびとウェルチを飲みながら猿飛さんを見ている。言い終わって、ちょっとした沈黙にさえ耐えきれず、猿飛さんがノンフライのスナック菓子だけを鞄から取り出した。沖田は何も言わない。

「俺はむしろ好きだけどな、大人の女の人」
「ザキやめろ、きめえよ」
「冗談だよ、何むきになってんだか」

口を開くと、すかさず沖田から非難の目が向けられて、笑う。

「お前さあ、ほんと、なんつーんだろ、狭いよな」
「あんたにだけは言われたくない」

沖田の無神経な言葉に、猿飛さんがきっと沖田を睨みつけた。俺から言わせればどっちもどっちだ。俺も含めて。

「だってお前から話しかけるのって俺らだろ、銀八の野郎だろ、ええ、あとは」
「最近さ、服部先生とお熱なのは?」

俺が茶化せば、沖田が眉を下げてしかめっ面を向ける。指折り数えて、それが中指で止まっている。思案顔。

「どいつだっけ」
「日本史の」

俺が言うと沖田がああ、確かに、と言って頷き、
猿飛さんが慌てたように首を振った。左手で何か振り払うような素振り。

「補習補習ってしつこいんだから、最悪よ」

そんな猿飛さんの様子に、沖田がわざとらしくこほんと咳払いする。甚だ嫌味な奴である。

「何にやにやしてるの」
「あいつだったよな、確かブス専」

途端に、目の前のクッションが沖田の顔面に叩きつけられる。クッションとはいえあれは痛そうだ。

「いって!」

お姉さんと同じ薄茶色の前髪が変に乱れて、沖田が声を上げた。頬を押さえるのは些か大袈裟だ。猿飛さんは俺になんか目もくれないままでいる。猫みたいな、小学生みたいな喧嘩だ。そりゃあ狭くもなる。

「あのさあ、今更だけど、今日、二人ともご機嫌斜め?」

また俺が笑う。へらへら。それしかやり方を知らない。めんどくさい。

「まあどっちでもいいけど」
「帰る」

俺がぼそりと本音を漏らすのと、猿飛さんが立ち上がったのはほぼ同時だった。ショップ袋を引っ掴む。中でダイエットコーラがちゃぷんと揺れる音がする。2リットルのペットボトルが入っているとは思えない、猿飛さんの右腕が軽々とそれを持ち直す。

「え、猿飛さん、宿題は」
「一人でする」
「できないから集まったんじゃないの。それに俺の数学」
「隣の馬鹿に手伝ってもらえば?」
「算数止まりだっつてんだろバカヤロー」

隣の馬鹿に目を遣ると、馬鹿はしれっとウェルチに手を伸ばしていた。数学などこいつには縁遠い話である。呆れた眼差しを向けていると、ふいに沖田が猿飛さんに声をかける。

「さっちゃん」
「…何」

猿飛さんはもう部屋のドアを開けようとしている。振り向きはしない。チェック柄のシュシュを此方に向けて、そのままだ。

「何よ」
「…あれでィ、姉上にちゃんと挨拶してけよ」
「また明日」
「おう」

ドアが閉まって、思わず沖田をまじまじと見つめる。今のあれは何だ。猫でも喧嘩は次の日に持ち越すんじゃないのか。やっぱり沖田は涼しい顔をしている。乱れていたはずの前髪もいつの間にか直っていた。猿飛さんが買って来たスナック菓子なんかに手を付けて、そのままの手でポータブルゲームを弄る。

「俺にはわからんよ」
「何が」
「数学が!」

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