また会う日を楽しみに
総悟は、豆電球の光を消して眠ってはいけないのだと言う。それもどういうわけか、ひどく厚かましく、横柄に、威張り散らすようにえっへんと鼻を鳴らしてそう言うのだ。さては真っ暗闇が怖いのだな、と思って総悟が寝た頃合いを見計らい豆電球を消してみると、翌朝にはひどい寝癖を跳ねさせて、あらん限りの力でどすどすと縁側の廊下を憤然とやって来る。
「どうして消すんでィ!このやろう!テメエこのやろう!」
「寝た後に消してやったんだろ。お前が怖い思いなんぞしないように、配慮までしてやったってのに」
「怖いもんか!俺は!ちっとも!」
総悟は言って踵を返し、その小さな背中を向けまたどすどすと縁側の廊下を通り、朝の光が差し込む明るい和室の豆電球をつけると、何事もなかったかのように再び布団に潜り込むのだった。そんな習慣がもう数年は続いたが、知っているのは俺くらいなものだった。その間に総悟は何度か隊服を一回り大きいものに新調したし、俺はその間何度も禁煙に失敗した。彼女が江戸にやって来たのは、総悟が暑い暑いと言って雨戸を開けっ放しにして、夜な夜な和室の豆電球に吸い寄せられる小さな虫を何匹かとっ捕まえた翌日のことだった。虫かごに入れた羽虫はみな、一晩で息絶えていた。彼女の葬式を終えて、総悟は虫かごの中の有様を見た。寝不足でやつれた薄い目蓋が、重く赤い瞳にのしかかっていた。
「こうなることはわかってたんでィ」
総悟は言った。
「姉上が、」
吐く息が震えている。
「そーちゃんを驚かせに、江戸に行くからねって。眠っているそーちゃんをわっと言わせて、びっくりしているそーちゃんを連れて、夜更かしするの。江戸の商店は真夜中も開いているんでしょう、お菓子を買って、それからどうしようかな、そーちゃんどこに行きたい?……」
総悟の声は、驚くほど彼女に似ていた。彼女そのものだった。ゆっくりしていて、弾んでいて、ここにはないしあわせの形だった。
「姉上、あれでおっちょこちょいだから。俺の部屋と間違えて夜な夜な土方さんの部屋に入ったら、そりゃもう大変でしょう。夜でもちゃんと俺の顔が見えるようにって」
総悟は顔をくしゃくしゃにして笑った。豆電球を消す、紐を引く手首のか細さに、俺は堪らず俯き伏せる。蛍光灯のあたたかな光がなくなって、辺りがようやく暗くなる。
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