星が燃えている
彼を愛する人間を私は知らない。その存在の有無も、私は知る術を持たない。彼とて小さな赤ん坊だったはずだ、父と母がいてそうして育まれてきたはずだ。同じ頃合いの年をした子どもたちと共に師を見上げ、何かくだらないことで笑い、人の死を悼み深く悲しむことがあったかもしれない。私にはないことばかりだ。私は彼を理解できない。
「来島ァ、手前こんなところで何してる」
「あ、晋助さま。今日は流星群が見えるって武市先輩のヤローが言うもんで」
「酔狂な奴だな」
彼は心の底からそう思っているようだった。まったく理解できない様子で私を一瞥して、彼はちらと上空へ視線を遣った。星なんぞはどこにも見当たらず、手に届きそうなほど近くに浮かぶ分厚い雨雲が夜空を覆っている。彼は暫くそうしたまま、やがて煙管から細長い息を吐き出した。
「……こんな夜にはもうすっかり無くしたもんまで思い出していけねェ。腹ァ下すぞ、来島」
胴回りを晒している私に呆れて首を振ると、彼は私の背後から着物をぐいと引っ張り、それで満足したのかさっさと船内に戻ってゆく。その分胸元がずり上がったのを見向きもせずに、私は彼の姿がまだ見えるうちからそれでも構うことなく着崩れた上衣を整えた。背に羽織っている女物の着物を貸してくれればいいものの、そんなことを思いも付かないのが高杉晋助という人である。
「無くしたものかぁ」
空っぽの私にはない、彼の過去の美しいものたちを、私はうらめしい思いで考えあぐねている。思い出すものがあるというのはいい。彼はそれを知らない。言ってやるつもりはないけれど。
「あ、星」
思わず子どもみたいに空を指差し振り返る。言わずもがな彼の姿はとうにない。私は自室でぬくぬく布団に丸まっているであろう彼に届くよう、込み上げる予感に任せて盛大なくしゃみをかましてやった。
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