アナタ色に染まる指先

早朝からの任務を終えて、スミレはリビングでゆっくり過ごしていた。
ふと爪を見ると、黒のマニキュアがところどころ剥げている。
『せっかくだし、黒以外の色にしよっと…』
スミレは自室に戻ってマニキュアを選ぶ。
『…この色がいいな』
スミレはマニキュアの小瓶を手にリビングへ戻った。


『うー…やっぱりキレイに塗れない…』
手先は決して不器用ではないはずだが、マニキュアはムラになる。
スミレは塗り直そうと、除光液でマニキュアを拭き取った。

「何だ、この臭い…」
リビングに、サソリが眉をひそめて入ってきた。
『サソリ!ちょうどよかった!』
「あぁ?」
『サソリにお願いしたいことがあるんだけど』
「何だ…」
サソリは露骨に嫌な顔をする。

『サソリ、手先器用でしょ?わたしのマニキュア、塗ってくれない?』
サソリは黙っている。

「…いいだろう。それ貸せ」
『ありがとう』
スミレはサソリにマニキュアを渡すと、ソファーに座った。
サソリはソファーの前のテーブルに腰掛ける。

「手、出せよ」
『う、うん…』
初めて触れる、サソリの手。
芸術家らしい、細く繊細な指。
女のわたしよりキレイな手してるんじゃないかって思うくらい。

マニキュアが爪に広げられる。
冷たさが爪を通して指先に伝わってきた。

「お前…こんな派手な色塗ってもいいのか?」
サソリはスミレの指先に目線を遣ったまま呟く。
スミレが選んだのは赤。
『だって黒のマニキュアは飽きちゃったし…わたし、暁の紅一点だからね』
スミレは笑う。

「そんなこと言ってると小南に怒られるぜ?ククッ…」
サソリがスミレの顔を見ると、慌てたような表情。
『おねがいっ!小南姉さんには言わないで!』
「さぁどうかな…」
サソリが意地悪げな表情を浮かべると、スミレは泣きそうな顔になる。

「…よし、綺麗に塗れたぜ」
スミレの指先は、雑り気のない赤で綺麗に彩られている。

『うわぁ、さすがサソリ!ありがとう!!』
「乾くまではモノ触るんじゃねぇぞ」
『はーい』
スミレは指先を見て嬉しそうにしている。
そんなスミレを見て、サソリは何か企んだように笑う。

「そうだスミレ、なんか礼してもらわねぇとな」
『え?うそ…』
サソリの顔が目の前に来たかと思うと、唇が重なった。
『んんっ…』
スミレは抵抗しようと、サソリの肩を押す。
するとサソリは、案外すぐ唇を離した。
「そんなことしたら、爪グチャグチャになるぜ?」

そう言ってスミレの手首を掴むと、再びキスを始めた。
サソリのキスは、徐々に激しさを増す。
『は…んっ…』
彼の舌が口を侵して、歯列をなぞられる。
快感を覚え始めたスミレは、もはや抵抗する気などなかった。

『っはぁ…』
不意に、サソリはキスを止めて立ち上がる。
スミレは少し潤んだ瞳でサソリを見上げる。
「エロい顔しやがって…そんなに良かったか?…続きがしたいんだったら、爪が乾いてからな。ククッ…」そう言い残してリビングを出て行った。
スミレは突然のことに驚いて、動けなかった。

ただ胸の鼓動が治まらないまま、スミレは大好きな彼の髪の色に彩られた指先を眺めていた。


END

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