君しか見えない
百年前と二百年前の八葉と共に、不思議な世界を散策中。
「そちらの時代の神子殿もなかなか魅力的だね」
「おや、私の神子殿が魅力的なのはわかるがね、私の可憐な花を勝手に盗まれては困るよ」
地の白虎の二人、友雅と翡翠、二人に囲まれてあかねはおろおろと慌てている。満更でもない、という風ではないが頬を赤く染めている。
「初心なところがかわいいねえ」
「やめなさい、翡翠。神子殿がお困りだ」
先ほどから口説き文句をつらつらと述べる翡翠を、同じ時代の天の白虎である幸鷹が止めに入る。あかねはほっと息をついている。
「まったく幸鷹はお堅いね。美しいものを愛でたくなるのは仕方のないことだろう」
「神子殿が美しいというのは同意だがね、あまり姫君を惑わさないでいただきたいものだね」
口の減らない二人はのらりくらりと幸鷹の制止を交わしながら、まだ言い募っている。
少し離れたところから譲はその光景を見て、ここにいる神子が先輩でなくて本当によかったと思った。
先輩が捕らえられていることは心配だったが、少なくとも友雅と翡翠の二人に口説かれることはないということである。
「俺、同じ白虎の相方が景時さんで本当によかったです」
隣に立つ景時に聞こえる程度にぽつりと呟いた。景時は譲の視線を辿って、盛り上がっている神子たちを見つけてため息をついた。
「あー」
景時は同じ地の白虎とはいえ、百年前と二百年前の二人とは性格がまったく違ったから、二人の行動を理解できず苦笑いを浮かべるしかできない。
「景時さんがあんな女たらしだったら、仲間になんて絶対できないです」
隣の少年は神子である望美に対して恋をしているから、あの二人のような男がいたら不安でならないだろう。
景時を見た譲の顔は無表情ながらも、怒っているような雰囲気を漂わせていた。
「そうだね。ほんとよかったよ」
想像だけで怒ってるのかな。
その執着心に少し呆れつつも景時はそれを表情には出さないようにして相槌を打った。
「あ、でもうちにもいるじゃない」
景時がほら、と指を指す。
「なんだか楽しそうな話をしてるじゃないか。俺もそちらの神子様とお話したいんだけど」
「あかねさん、お疲れじゃありませんか?疲れの取れる薬湯をお持ちしました」
ヒノエと弁慶だ。
譲は輪の中に入っていく二人を見て肩を震わせた。これは本当に怒っているなあと、景時はそれを横目に見て思う。
「あの二人、助けなければよかったですね。あのまま北斗星君の術に囚われていればよかったのに」
譲の執着はすごいな、と景時はそら恐ろしく思って返事はできなかった。
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