靴ずれ
鼻緒が当たるところがすっかり赤くなってひりひりしている。譲は膝を抱えるようにして座り、足の指などに薬を塗ってきた。
擦り剥けているところは触るだけで痛い。
「まさか草履がこんなに辛いなんて」
ぼやく譲を、向かいに座った弁慶は微笑み慰める。
「すぐに慣れますよ」
薬を塗った足先に布を当て覆う。
「いつも草履を履かない生活なのでしょう? 仕方ありませんよ」
「随分やわにできてるんだな。ほら見てみろよ」
二人の傍に来て手当の様子を見ていたヒノエが自分の足を見せつける。足袋を履かないヒノエの床に置いた素足は、指先までしっかりとして、皮も厚く見える。
譲は得意げなヒノエに少しむっとしたが、まったく言い返すことができないので口を噤む。自分の柔らかい皮膚は、丸一日草履を履いて散策しただけでへこたれていた。足袋も履いていたのに。
「譲はなぜ今日は草履を履いていたのだ?」
同じく弁慶の手当を見守っていた敦盛が問う。
「靴が壊れたら困るだろ」
「靴…革のようなものでできていてあんなに立派なのに」
「登校用の安物だからね」
それに合皮だし、と譲が言うが、敦盛はわかったようなわからないような顔をしていた。
「あんな靴に覆われてるから足が柔らかいのか」
「うわっ」
話を遮って、ヒノエが譲の足を掴む。怪我をしているところは触らないが、足の裏を触っている。
「土踏まずとか、なくない?」
「やめろよ」
ヒノエが面白がるので、譲は避けて触らせまいとする。すぐにヒノエは触るのをやめた。
「俺たちの時代は、こんな風に一日中歩いたりしなかったんだよ」
「譲は箱入りなのか? 女性ではないのに、ずっと家にいたのか?」
敦盛に問われるとなんとなく譲は答えてやりたい気分になる。真面目な表情で尋ねるので少し笑う。
「車や電車で出かけることが多いから歩かなくていいんだよ。ガソリン…油で走る機械の車だよ」
「それは楽そうですね」
弁慶が言う。
「あ、そうですね。馬を準備しましょうか」
「馬なんて乗れませんよ」
「僕が馬を引きましょう」
馬もだめなのか、とヒノエがからかう前に弁慶が答える。
「それに…先輩や朔が歩いてるのに俺だけサボるってのも…」
「では、僕が望美さんと一緒に馬に乗れば、譲くんも遠慮しなくていいでしょう。譲くんの馬はヒノエにでも引かせれば」
「オレか! オレも望美と一緒がいい」
「それはだめだ」
譲が思わず即断する。
「また譲の心配症が始まった」
「まあ貴方に信頼なんてありませんしね」
3人がやり合うと、おっとりした敦盛は声をはさむことができずただじっとその経過を見守るしかなかった。
20120331
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