似たもの同士
長雨が続く時期だった。
昨日、タナトス退治に向かったのはアンジェリークとジェイドとヒュウガ。タナトスは無事に倒したのだが、その帰り道で事件は起こった。
ジェイドが草むらと思って踏み入れたそこは、数日続いていた雨のせいで沼になっていた。
一歩踏み入れたところから、ずるずるとジェイドの体が沈みこむ。ジェイドは人よりも随分と体が重い。
そのことを忘れていたヒュウガは、ジェイドの腕を掴み持ち上げようとして持ち上げられず、勢い余って沼に落ちた。
結局腰ほどまでしかない沼だったのだが、ヒュウガは頭からずぶ濡れになり風邪をひいた。もちろんジェイドはひかなかった。
「私が代わります」
翌朝、サルーンで朝食後の紅茶を飲んでいたところで、アンジェリークの強い声が上がった。ソファに腰掛けていたレインとニクスは顔を上げてそちらを見る。
ヒュウガのためのものであろう朝食の乗ったトレイを抱えたジェイドに、アンジェリークが言い募っている。
「いや、俺がするよ。俺のせいでヒュウガは熱を出したんだし」
昨晩、高熱を出したヒュウガは自室で臥せっていて、ジェイドが何くれとなく世話を焼いていた。
「でも、ジェイドさん昨日から休んでないんでしょう?」
「俺は丈夫だからね。それに、アンジェに風邪がうつったら大変だし」
「私は医者の見習いです。心得はあります」
凛として言い切るアンジェに、ジェイドも引こうとしない。
これではいつまで経っても、ヒュウガは朝食にありつけないだろう。
レインは大きくため息をついた。言い合っていた二人が、レインに目を向ける。
「休んでやれ、ジェイド。お前がゆっくりしてればアンジェは安心する」
「病人がいるのでもう少し静かにお願いしますよ」
レインに続けて、ニクスも穏やかながらはっきりとそう言った。
冷静な二人に、ジェイドとアンジェは口をつぐむ。無意味な争いをしてしまったようだ。
「…じゃあ、私が」
「うん、お願いするよ」
アンジェはジェイドからトレイを受け取ると、ゆっくりとヒュウガの部屋へ向かった。
ジェイドは仕事を失って落ち着かない風だったが、結局キッチンに行ったようだ。
レインは再び手元の本に目を落とすと、その向かいに座ったニクスが口を開いた。
「本当に皆いい子ですね。お互いを思い合う気持ちは美しいです」
微笑むニクスをレインは目を半眼にして見た。
「何アンタ、自分を抜かして言ってるんだ?」
ニクスはきょとんとしてレインを見る。本を読んでいたはずのレインと目が合う。
「夜中に何度もヒュウガの様子見に行ってただろ」
「気付いてたんですか?」
驚いて声を上げたニクスだが、すぐに唇の端を引き上げる。
「ということは貴方もヒュウガを気にして起きていたんですね」
レインはすぐに真っ赤になった。
「ちが…! 読みかけの本が気になって読んでただけだ!」
盛大に照れた顔を、手にした本で隠すようにしている。
「レインくんもいい子ですね」
ニクスは温くなった紅茶に口をつけた。
20110521
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