譲と白龍

 白龍がリビングで一人くつろいでいると、扉を開けて譲が覗き込んできた。

「ゆずる!」

 今日はリビングに誰もおらず、暇を持て余していた白龍は喜ぶが、譲は何か考え事をしている。
 上着を着てマフラーをしているし、手にはいつも使っているバッグ。食料品の買い物に行くスタイルだ。

「私、手伝うよ」

 意気込んで立ち上がった白龍に対して、譲は手を上げて制した。

「いや、いいよ。今誰もいないから、留守番頼む」

 譲はそそくさと家を出て行く。
 白龍はぽかんとしていた。

 白龍をスーパーに連れていくと、物珍しげにきょろきょろするし、子供のようにはしゃぐから目を引いてしまう。
 それに何より、無邪気な表情でお菓子を持ってきては「これも買っていい?」と問われると断りきれないのだ。

 見た目は自分より大きな男なのだが、なぜか子供のように甘やかしてしまう。
 他にも我儘放題の男たちがいるから、白龍一人だけをひいきするわけにはいかないのだ。
 せっかく出かけたがっていた白龍に悪いことをしたと反省しつつも、事情をわかってほしい。

 譲はスーパーに向かって足早に歩き出した。



 戻ってきたときには夕方になっていて、何人か他にも帰宅しているようだ。

 大きなエコバッグを二つ抱えてキッチンに入ると、ちょうど冷蔵庫を物色していたヒノエが、

「力持ちだねぇ」

 と、からかうものだから譲はむっとした。

「お前たちが少しでも手伝ってくれるといいんだけどな」

 こんな言い合いはいつものことなので、当人たちも聞こえる範囲にいた数人も深くは気にしなかった。
 たった一人、白龍だけが胸をざわつかせていた。



 夕食の準備中、白龍が静かにキッチンにやってきた。譲の邪魔にならないよう、少し離れたところで止まる。

「ゆずる、私は人の子ではないから食べなくても平気なんだよ。ゆずるが大変なら私はいらないから」
「え?」

 言葉は聞こえたがすぐには理解できず聞き返したのだが、白龍は何も言わずリビングのソファに戻って行った。



 しばらくして、食事ができたと皆を呼んだが白龍だけがじっとソファに座ったままだ。
 今いる人数分を準備したのに、白龍の席だけが空席だ。

 白龍は傷ついているんだと譲はわかっていた。買い物に行くときに蔑ろにしてしまっていたようだ。

「白龍」

 キッチンから呼びかけると、後ろ頭がぴくっと反応した。耳だけはこちらを向けているようだ。

「食べてくれよ。みんな食べるのにお前だけ食べさせないのはなんか変だし」

 謝罪にもなっていなかったが、白龍は呼びかけられただけで機嫌を直した。すぐにダイニングテーブルの椅子を引いて座る。

 先ほどまでの神妙な顔はどこへ行ったのか。にこにこと笑って「いただきます」をするといつも通りぱくぱく食べ始めた。
 譲はほっとした。

「ゆずるのご飯はいつもおいしい!」

 素直な感想を言ってくれる白龍に食べてもらうのはやっぱり嬉しいと思った。



20120124




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