屋根より高い

 一団の後ろの方を歩いていた譲は、袖を引っ張られるのに気付いた。

「なー、歩くの疲れた」

 今日は行軍ではない。散策のようなものだ。
 それでもあまりに間の抜けたヒノエの仕草に、譲はため息をついた。

「何言ってんだよ」

 振り払うまではしないが、面倒なやつだとあからさまに眉間に皺を寄せて見せる。
 ヒノエは気にせず、袖の袂をくいくいと引っ張る。
 歩くのが遅くなり立ち止まった二人に、他の仲間のうち数人は気付いたが、いつものことと笑うだけで誰も何も言わない。

「足ひねったみたい」
「嘘をつくな」

 眉を下げて訴えるヒノエを、譲はすぐに切って捨てた。

「まあまあ」
「うわっ!」

 次の瞬間ヒノエは譲の背中に飛びついていた。
 譲はバランスを崩しかけて、だが持ち直す。振り返って睨んだ。

「ふざけるな」
「あんたが真面目すぎ」

 譲は観念したように深くため息をついて、それから顔を上げるとヒノエを背負いなおして大股で仲間を追った。

 ヒノエは譲の背中にしがみついて、子供のようにはしゃいでいる。
 仲間の傍まで追いつくと、皆が二人を見て笑っている。またふざけてじゃれ合っていると思われているのだろう。

「ヒノエが、足をくじいたそうなので!」

 譲はとげとげしい口調で弁解をする。

「それはよかったな、ヒノエ!」

 九朗は譲の言葉の裏を理解しているのかいないのか、笑顔でそう言う。
 まーね、とヒノエは満足げだ。

 ヒノエは背を伸ばしてあたりを見回す。

「あんたはいつもこの高さから世界を見てるんだな」
「羨ましいか?」

 急にヒノエが感心したような声でそう言う。もちろん背負っている男は軽くはなく、少し嫌味を含めて譲が返した。
 けれどヒノエには効いていない。

「全然! またこの世界が見たい時はあんたにおぶってもらうからいいよ!」



20110901




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