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 フードコートにいるから来いよ。一方的にそう告げると悟はすぐに通話を切ってしまった。全く、せめてどの辺りにいるかくらいは教えてくれないものだろうか。決して狭くはなかったはずのそのエリアを思い出しながら、悟がいそうな店の辺りに適当な当たりをつけてはみる。幸い、ものの五分程でズズっと手元のドリンクを吸い上げる彼の姿が見つかった。学友達とよく行くファーストフード店の派手なそのパッケージは相変わらず目に痛かった。

「迷子とかないわーお前いくつだよ」

 顔を見るなりそう吐き捨て捨てるように呟いた悟はそのまま豪快にハンバーガーへとかぶりつく。失礼だな、誰が迷子だって?しかし、ここで感情的になって対抗しても仕方がないことを私はよく知っている。

「……で、いいの見つかった?」
「んあーまぁ。そこそこかな」

 手元のハンバーガーをガツガツと食べすすめながら、悟はテーブルの脇へと視線を送る。その先には掌程の大きさの真っ白な紙袋。紙自体に厚みがあり、うっすら光沢の見える丈夫そうな袋の真ん中には、私にも分かるくらい世界的に有名なブランドのロゴが慎ましやかに描かれている。

「姉貴がたまに使ってる化粧品ブランドの、新作らしいヤツ」
「へぇ」
「興味ねぇなら聞くなよ、ウッザ」

 まさか、そんなことないよ。不服そうな表情の悟に向かい合う形でプラスチックの軽い椅子を引く。食べ終わった包み紙を右手でグシャリと潰した悟は、左手で掴んだドリンクの残りを一気に音を鳴らせながら飲み干した。一見ガサツ極まりないその仕草も、悟ほどルックスが整っているとそうでもなさげ見えるのだからこの世の中、不平を唱える人間いるのも無理はないとつくづく思う。
 現に今だって、私の後ろにいるであろう女子高生のグループが、彼の容姿についてアレコレ囁いている声が聞こえている。本人が全くもって気にしていないので、私も特に気にしない。残り少ないフライドポテトから一つを摘めば「あ、つぅかさ」とケロリと表情を変えた悟がこちらを見た。全く、切り替えの速さは音速……いや、まるで光の速さだ。

「このまんま、家寄って帰るつもりなんだけど」
「周さんの家?……今から?」
「さっき連絡あってさ、今日なら会えるって言うから。お前も久々じゃん?」

 悟は問いかけるようにそうは言ったものの、私にはわかっている。いつもの照れ隠しだ。あたかも彼女に会いたいのが自分だけではない、という悟の捻じ曲がった主張。甘んじて受け入れてやろうと「まぁ、そうだね」と二本目のポテトを口に入れた。

 でもまぁ……ほとんど勢いで購入してしまった鞄の中身が無駄にならなくて良かったと、少し安心もする。親友の姉と言っても、彼女は立派な社会人で、それも一級術師。高専で教鞭を取っているわけでもなく、たまたま会えることなんて月に一度あればいい方だ。現にここ二、三ヶ月はその姿も見ていない。
 私達の入学当初は弟を気にしてか、高専にも頻繁に顔を出していたようだが、周さんが心配していたよりずっと彼は上手くやれているらしい。"夏油君みたいな子が悟の同級生で良かった"とホッとしたように笑ってくれたのは確かまだ梅雨入り前だったように思う。まさか彼女が私のことを認識しているとは思ってもみなかったので、多少浮かれてしまったことを懐かしくも思い出す。そして、それを悟に嗅ぎつけられてしまっては、もう手遅れだった。

『まぁ、俺に似て姉貴も相当ビジュいいしな』

 姉弟なら逆だろう、普通は。ニヤニヤと笑うその顔に対抗する手段をその時の私はまだ持たなかったようで、最早開き直るより他なかった。

学生服の青年(しかもイケメン)が、ブランドの小さめの化粧品の袋持ってるのにちょっと萌えたりするのは私だけでしょうか?
そしてハンバーガーを頬張る五条くんと、ポテトを一つずつつまむ夏油くん、なんか可愛い。
20230928



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