カナリアが鳴いた
▼かすかな希望
 思わせぶりな態度を取り、希望を持たせるこの男は随分と非道い人間だと思うのだ。その笑顔に、その仕草に俺がどれだけ翻弄されているか分かっていない。
 喧嘩腰で向かってくるわりに、優しい顔で笑いかけてきたり、優しい手つきで触れてきたりするのだ。家族愛以上の感情があるのは、俺だけだ。家族愛の感情だって、持っているかわからないのに、こんなバカらしいことを考えている。
 任務終わりの奴を見つけ、その場に駆け寄ってやろうかと考えたが、他の仲間と笑っているところに行って機嫌を損ねるのは気が引ける。
 自室へと戻り、酒を煽る。この気持ちが阿呆らしいものに見えてしまう。いや、本来なら阿呆らしいものなのだろう。人を殺す生業の自分が、人を愛するなんて、おかしいことこの上ない。
 三人掛けのソファーに寝そべり、天井を仰ぐ。いつもと変わらない天井の柄に、ため息を吐く。
 ノック音が部屋に響いたのは、ため息を吐いて少ししてからだった。返事をせずにいると、そろ、とゆっくりドアが開かれた。


「なんだ、いるじゃねぇか」
「不躾な野郎だな。誰が入っていいと言った」
「俺がいいと思ったから入ったんだよ」
「躾のなってねぇ犬だ」
「うるせぇ。土産持ってきてやったのに、いらねぇのか」


 グラスをテーブルの上に置き、体を起こす。ジャブラの片手にはワインの瓶とグラスがあった。いつもは土産なんて寄越さないくせに、今日に限ってなんだってんだ。俺に
希望を持たせるんじゃない。


「いるだろ?」
「貰ってやってもいいが、グラスが二つあるのはなんでだ?俺への土産なのだろう?」
「ああ。そうだよ。一緒に酒盛りでもって思ったけどお前は嫌そうだな」
「野郎二人で酒なんて飲めるか」
「んだとぉ?せっかく買ってきてやったのになんなんだよ!」
「勝手に買って来たんだろう?」
「そぉだけどよぉ。ちぇ、一緒に飲もうと思ったのに」


 拗ねたように頬を膨らませ、視線を逸らした。そんな姿に、眩暈がした。まるで、お前が俺に恋心を抱いているようではないか。そんなこと、あるはずないのに。
 ジャブラはワインをテーブルに置き、一人掛けソファーに腰かけた。遠まわしに帰れと言ったし、それを受け取ったはずなのに、なぜ座るのか。俺にはこいつが考えていることがわからない。


「おい」
「うるせぇ。ここで飲むって決めたんだよ俺は」
「はぁ…好きにしろ。」


 ジャブラはワインを二つのグラスに注いだ。一つを俺の前に置き、もう一つを口に運んだ。此奴が、ワインよりも焼酎の方が好きだと言うのを、俺は知っている。



2014/07/01 01:17
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