カナリアが鳴いた
▼流れ星
 流れ星にお願いなんてメルヘンで乙女チックなことを俺がしているなんて知ったら、笑われるだけじゃ済まされない気がする。というか、そんなの知られたら恥ずかしくてこの船に乗っていられない。マリモなんかはずっとそれでからかってくるに決まっている。そんなの耐えられない。
 願い事というのは、その、恥ずかしいのだが、俺がウソップとお付き合いをできますように、という内容だ。俺からのアプローチに気付かずニコニコしながらお礼を言っているウソップは可愛くて可愛くて抑えが利かなくなりそうになるが、どうにか耐えている。どんな仕草も可愛らしく見えるのだから、末期だな、とタバコの煙を吐きながら考えた。きっと、今日も夜空を眺めて流れ星を見つけたら願い事をするのだろう。
 一人で皿洗いをしていると、控えめなノックが聞こえた。


「はい?」
「失礼しまぁ〜す」
「なんだよ」
「えへへ、皿洗い手伝うぞ」
「おう、サンキュー」


 さっきの控えめなノックはなんなんだ、失礼しまぁすってなんだよ、えへへって可愛いな、くっそ、どこまで俺の心を掴む気なんだ。定位置について、俺が皿を洗ってウソップが皿を拭く。この幸せな気持ちをもっと増やせたらいい。少しだけ触れる関係じゃなく、もっと、深いところまで触れ、感じ合いたい。


「今日、流星群が見れるらしいぜ」
「流星群?」
「ああ。流星群なら願い事たくさん叶いそうだよな」
「あー、そうだな」
「サンジはなにお願いするんだ?」
「願い事って人に言ったら叶わないんだぜ」
「そっか。サンジのお願い叶うといいな」
「おう」


 願い事を人に言うと叶わなくなると言っていたのは、バラティエにいた時に来た夫人が言っていた。夢は話してもいいけれど、と続けられたので、俺はそのとき夢見たことを夫人に話した。話し終えた後にお小遣いをくれたので、きっと覚えているのだろう。

 夜、不寝番のウソップの為に夜食を作って渡しに行った。ウソップは毛布に包まりながら空を眺めている。空には、星がキラキラと瞬いているが、流れ星は見えない。


「ウソップ」
「お、おう!ビックリした〜」
「なんでだよ」
「急に声かけたらびっくりするだろ!」
「ちゃんと周囲に気を配ってればそんなことにゃならねぇだろ」
「うっ」
「で、流れ星見えたか?」
「ん〜、まだ」
「そうか。お前の願い事ってなんなだ」
「人に言ったら叶わなくなるんだろ?言わねぇよ」
「そりゃ残念」


 毛布に包まったウソップの隣に座ったら、少しだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに人懐こい笑顔を見せた。その笑顔も好きだ。
 きらり、視界の端で何かが光った。そっちへ視線を向けようとするとキラキラとたくさんの光線が頭上を通過した。


「うおおお…」
「すげぇな…」


 願い事なんて忘れて俺はずっとその流れ星を見ていた。この奇跡なような瞬間をウソップと二人きりで流れ星を見ている今を、頭の中にも心の中にも刻み込んだ。もう少し、もう少しだけ、友達でいてもいいと思った。


2014/05/28 23:28
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