カナリアが鳴いた
▼くちぶえ
 ウソップが口笛を吹くと、フランキーがギターを弾き、ブルックがバイオリンを弾いて、チョッパーが蹄を叩き、ルフィが肉を頬張りながら太鼓を叩く。ナミさんとロビンちゃんはそれを見て笑い、アホ剣士はニヤリと口角を上げる。俺はその合唱を聴きながら料理をみんなの元へと運ぶ。
 この船も随分賑やかになった。途中参加ではあるものの、ここまで賑やかな奴らが集まるとは思いもしなかった。今まで年齢の近い人たちと共に過ごすことが少なかった俺は、すべてが新鮮に感じる。色々な事情を抱えながらも前を向いて生きて行く強い奴らが乗ったこの船は、西に向かって航海中だ。海軍や海賊に会うこともなく、珍しく平和な日々を過ごしているが、つけは後にやってくる。きっとこの後何かしらのトラブルがあるはずだ。それが大きいか小さいかは別として、何かが起こるのではないかと俺は考えている。
 口笛の音が聞こえなくなるのと同時にドアが開かれた。振り向くとウソップがニコニコしながら立っていた。右手には酒瓶。


「どうした?」
「んん、サンジどうしてるかなって」
「料理してるよ」
「うん。一人で寂しくないかと思って来た」


 頬を染めながら紡がれる言葉は、酒が入っているにしてはハッキリ伝わってきた。頬が赤いのだって、酒を飲んでいるからに決まっている。酒瓶をテーブルに置いて、俺の傍へとやってくる。ふわりと甘い匂いが香った。
 洗い物が溜まったシンクを覗いて、袖もないのに腕まくりをするフリをした。スポンジに少量の洗剤をつけて、皿を洗い始める。


「いいのか」
「なにが?」
「ここにいて」
「なんで?」
「なんでって…」
「…それってここにいちゃダメってことか?」
「そうじゃねぇよ」
「ならいいじゃねぇか」


 唇を尖らせて拗ねた顔をしながら黙々と洗い物をし始めた。何か癇に障ることを言ったか、と先程の言葉を思い返すけれど、変なことは言っていないはずだ。なんでこいつの機嫌を気にしなければいけないのか、と思うけれど、拗ねている顔より笑っている顔が好きなので、どうにかして笑わせたい。


「知ってるか」
「なにを」
「夜に口笛を吹くと泥棒がくるんだぜ」
「…海にも来るのか」
「さぁな」
「海の泥棒っていうのは…海賊のことか?おいおい、なんでこの楽しい時にそんなこと言うかね」
「海賊とは限らねぇさ」
「あ〜?じゃあなんだ」


 首を傾げながらも皿を洗う手が止まらないのはさすがだな、と感心する。笑わせたいと考えていたのに、これでは不安にさせてしまうではないか。くそ、と心の中で舌打ちして、ハッと思いついたことに俺はニヤリと笑ってウソップの顔を覗くように近づいた。


「おい、さん、」


 名前を呼ぶより早く口付けて、ゆっくりと唇を離した。ウソップは驚いた顔をして固まっている。さて、どうしたものか。


「なななななななな」
「ん?」
「ん?じゃねぇよ!」
「唇泥棒だ」
「最低だな!」
「なんだよ、いいじゃねぇか減るもんじゃねぇんだし」
「減る!何かが減る!」
「も一回するか?」
「……えー、」


 どうしてそこで悩むのか、俺は苦笑してもう一度口付けた。名残惜しいとでも言いそうな顔で俺を見てきたので、俺は視線を逸らした。


「おいドロボー」
「あんだよ」
「…なんでこんなこと」
「なんで…お前が好きだからかな」
「うわぁ、信用できねぇ」
「失礼だな、お前」
「まぁ、あれだな、これで泥棒はもうやってこないだろう!」


 胸を張って言ったウソップは頬と耳を赤くさせて洗い物を再開させた。酔っていたから覚えていないと言われそうだが、口付けた時に感じた匂いと味は、酒が少量しか入っていないと語っている。俺は、舌で自分の唇を舐めて、ニヤリと笑った。



2014/05/20 0:09
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