カナリアが鳴いた
▼会えない時間
 ほんの少し会えないだけで、どうしてこんなに寂しくなるのだろうか。私にはわからない。そんなことを考えている間に、会いに行けばいいのだろうけれど、私も彼も仕事をしているのでそんな我が儘言っていられないのだ。
 今日の仕事をこなしている時間も、彼のことばかりを考えていた。それでも仕事に支障が出ないのだから、私はとても優秀な人間だ、と自分を褒める。きっと彼も褒めてくれるだろう。頭を撫でて、「お前は賢いな」と言うに決まっている。
 アイスバーグさんに「面白い百面相だな」と真顔で言われたのでにっこりと笑って書類を突きつけたのが5分前だ。
 今は少ない休憩時間。彼の写真をファイルから取り出し眺める。これだけで満足をする私ではないが、少しは心が満たされた。この写真は実は隠し撮りで、私以外誰も見たことがない。誰にも見せるつもりはないので、この写真を見るだけでも神経を使う。


「カリファ」
「はい」


 後ろから名前を呼ばれたので、サッと写真をファイルに仕舞って振り返る。そこにいたのはカクだった。声で分かったけれど、神経を使っていたので理解するのに少し遅れてしまった。


「どうしてここに?」
「今は休憩時間じゃ」
「ああ、そうだったわね」
「今なに見てたんじゃ?」
「貴方には関係ないわよ」
「なんじゃぁ。つれないのう」
「休憩に本社に来るなんて、暇なのね?」
「暇じゃとぉ?せっかくお届け物を持ってきてやったんに、渡さんぞ!」
「私に荷物があるの?あるようには見えないけれど」
「ふふん。メッセージカードじゃ」
「誰から?」
「お前さんの想い人じゃ」


 ニヤニヤ、という嫌な笑いではなく、ニコニコと人の良さそうな顔でそう言って来た。これは、邪の気持ちが無い時に見せる笑顔だ。カクは、私と彼の関係を喜んで見守ると言っていた。
 ポケットから出したのは、何の変哲も無い、白いメッセージカードだった。


「ありがとう」
「ええんじゃ。ワシにしか頼めんことじゃろう?」
「そうね」
「逢引のお誘いかの?」
「ふふ、ご名答」
「ええのう。恋人っての、ワシも欲しい」
「貴方ならできるでしょうに」
「遊びじゃなく、本気の奴がええんじゃ」
「いつかできるわよ」
「いつか、なぁ。まぁ、気長に待つことにするわ。じゃあ、ワシはもう戻る」
「ええ。ありがとう。頑張ってね」
「おう」


 会えない時間も満たしてくれる彼に、頬が緩んだ。メッセージカードには、ただ、「会いたい」とだけ書かれていた。カクの言った逢引の誘いとは少し違うかもしれないけれど、私と彼にはこの言葉だけで伝わる想いがある。
 シンプルな「会いたい」の言葉に、私は翻弄されるばかりだ。早く仕事が終わればいい。そうすれば、彼に会えるのだから。



2014/06/30 09:56
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