カナリアが鳴いた
▼秘密
 病室で意識をなくしているルッチを見てため息を吐いた。こんなルッチの姿は今まで見たことがなく、どうすることもできない自分にもまた、ため息を吐いた。ハットリが慰めるようにして俺の肩に乗り頭を摺り寄せてくる。鳩にまで気を遣われるとは、どれだけ落ち込んでいるのだ、俺は。ハットリも、出来すぎている。ルッチに似ていないところにも好感を持てる。
 生クリームとキャラメルがたっぷり乗った甘すぎるコーヒーを口にする。甘すぎるとは言ったが、俺にはこれがちょうどいい。ルッチが起きていたら顔を顰めて、これは飲み物じゃないと言うのだろう。
ルッチのことを、考えすぎだと思うけれど、目の前で寝られたら考えないことができない。穏やかな顔をしているせいで、死んでいるように見える。掛布団から出されている手にそっと触れたら低い体温を感じ、生きていることを感じられた。


「ばぁか、早く起きろよ。もう昼だぞ」


 声を掛けても答えてくれるのはハットリだけで、やはり鳩のくせに出来すぎている、とまた思うのだ。頭を撫でると小さく鳴いたハットリに、愛しささえ感じられた。ルッチと違い、気が遣えるのはなぜだろう。ルッチがこんなだからちゃんとしているのか。幼少の頃からずっと一緒だが、あの頃から気を遣えたような気がする。出来すぎた鳩め。


「こいつが起きないと張り合う相手がいねぇからつまらねぇな。お前が話し相手になってくれるわけでもねぇし」
「クルッポー」
「へいへい」


 ルッチの上をくるくる飛び回っているハットリを捕まえて大人しくさせた。食っちまうぞ、と脅せばこいつは大人しくなる。本当に食うと思っているのならば心外だ。


「早く目が覚めたらいいな…おいハットリ、これ言ってたの秘密だからな!」
「クルッポー」


 顔をきりっと整えて敬礼ポーズを取ったハットリの頭を撫でた。こんなことの繰り返し、たまにはこんな日があってもいいのか、と思うけれど調子が狂ってしまう。だから、早く起きろよ。お前が起きるのをみんなが待ってるんだ。俺だって、待ってるんだから。早く起きないと、どっか行っちまうぞ。



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2014/05/09 11:03
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