カナリアが鳴いた
▼ブランコ
 大きな木に括り付けられたロープには丈夫な木の板が括られたロープと繋がりぶら下がっている。手作りのブランコは、子供たちのいい遊び道具である。誰が作ったのかもわからない、この丈夫なブランコは、カリファの父であるラスキーも幼少の頃に遊具として使っていたらしい。それを聞いた時、時代の流れは変わっても、変わらないものというのがあるのだな、と子供ながらに思ったのを覚えている。
 海軍に追われている身としては、この懐かしい遊具で遊んでいる場合ではないのだが、島を散歩中に見つけた懐かしすぎるこのブランコに昔の様に座ってみたくなった。どんなサイズの子でも座れるように少し大きめに作られたブランコにまだ座れるとは思わなかったが、大人になってから座るとまた違った景色が見られてこれはこれでいい。
 前後に揺らして空を仰ぐ。風の吹く音と、鳥の囀りと、暖かい日差しと、森の匂いが自分を満たす。大きく深呼吸すると心まで満たされた気がした。
 さあ、と先程とは違う知った匂いの混じった風が吹くと同時に、地面に降り立つ静かな革靴の音がした。


「ここにいたのか」


 嫌いではない、その声が自分を探していたとわかる発言をして、少しだけ、ほんの少しだけ、動揺した。それに気付いているはずなのに何も言わないのは優しさなのかなんなのか。
 後ろから近づき、首元に手を這わせてグッと力を入れ、屈んで額を後頭部に摺り寄せてきた。何をしたいのかわからないけれど、人恋しいのかもしれないと思い、そのままにした。最初に力を入れられてからは、すぐに緩められてその手は肩に移動し、後ろから抱き締められている形になった。体勢、きつかろうに。


「くっつくなよ」
「いいだろ、そういう気分なんだ」
「へぇへぇ」
「このブランコ、まだ残っていたんだな」
「ああ、懐かしい」
「俺はあまりこれで遊びはしなかったが」
「ハットリとよく来てたろ」
「……」


 ハットリとよくこのブランコに遊びに来ていたのは知っていた。幼年組が遊んでいる内にも、俺たちに交じって鍛錬をしていたし、子供の遊びに興味が無さそうな顔をしていたので放っておいたのだ。深夜、部屋を抜け出しパトロールだと言ってうろちょろしていたのを後ろからついて行ったこともある。きっと、ルッチは見られていることを知られていないと思っていたのだろう。肩に爪を立てられた。照れ隠しなのはわかっているが、少し力が強すぎやしないか。痛くないわけはないのだ。手加減を知った方がいいと、昔から言っているのに覚える気はないらしい。


「お前も一緒に遊べばよかったんだ」
「そんなことをするためにここにいたわけではない」
「俺がもっと強引に誘えばよかったか」


 後頭部から額を離し、うなじに鼻を擦り付けたようだった。吐息が背中に掛かって肌が粟立った。もしこれ以上のことをここでするならば、止めなければならない。この誘惑に、勝てる気がしないのはなぜだろう。
 息をゆっくり吸って、ゆっくり吐き出した。


「ジャブラ…」


 名前を呼ばれ、心臓が大きく跳ねた。ここで行為をするのも悪くない、と考えていたら風が一つ吹いて、また知った匂いが鼻を擽った。


「思い出の場所を汚すのはどうかと思うぞ」
「ああ、そうだな、そうだ。ルッチ、離せ」
「なんだ、その気になっていただろう」
「うるせぇ」
「するならしてもいいんじゃが、海軍が来たぞ」


 カクの言葉にルッチは肩から手を離してうなじに口付けてから地面を蹴った。俺はその後を追うためにブランコから立ち上がる。カクが何やらニヤニヤしているので軽く頭を叩いてから同時に地面を蹴った。海軍の元に行く間、他に何をしていたかを聞かれたが、俺は答えずにまた頭を叩いた。それでもカクの顔はニヤニヤしたままで、きっと俺の顔は赤くなっているだろう。もしかしたら、そのせいでニヤニヤしているのかもしれない。くそ、と呟いて力強く木を蹴った。



2014/05/15 21:25
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -