カナリアが鳴いた
▼体温
 子供の頃から平均体温が低く、寒いのが苦手だった。その度にジャブラの布団に潜り込んでは一悶着あり眠りにつくのが遅くなることが多かった。一悶着あるあった後には汗をかいていたので部屋に戻ってもよかったのだが、ジャブラの部屋のベッドがなぜか心地が良かったので、気付いたら眠りについていた。そう思っていたのは俺だけではないので、少しだけ胸がチリ、と焼けるような感覚が襲ったのを覚えている。
 同じベッドで寝なかった5年間は、物足りなく、よく胸を締め付けた。これが寂しいという感情なのかとハットリに語り掛けたらいつものように鳴くだけだった。
 船の中は小ざっぱりしていて、人数分以上の部屋があるが、それは各々の手で自由に改造されて、本来の形を無くしている。ジャブラの部屋も例外ではないが、司法の塔のように庭園をモチーフにした部屋に出来ないので文句を言っていた。鶏だけが部屋を歩き回っている。広い部屋に植木鉢を置いて世話をしている姿は年寄臭いと思ったが、それを言うと喧嘩に発展してしまうので口を噤んだのは記憶に新しい。
 その質素な部屋に訪れるのが俺の日課である。島に寄る度にこの船には物が増えていくが、俺の部屋は何も変わらない。それに比べてジャブラの部屋には着々と物が増えていく。それでもまだあの庭園には程遠いので、俺は質素と呼んでいる。
 ジャブラの部屋を無遠慮に開く。俺が部屋に入ってきたのもお構いなしに、ジャブラは二つ並べたベッドの上で寝転がって天井に手を掲げている。


「おい」
「あん?」
「何をしている」
「べつになにも。暇なんだよ。任務もねぇし敵もいねぇからな」
「俺がこうして部屋を訪れているというのに暇だと言うのか」
「部屋に来たってお前は何もしねぇじゃねぇか」
「していいのか」
「何をだよ。やめろよ」


 話しかけたら起き上がったジャブラは俺と向き合い話をする。胡坐をかいて肘を腿に置いて話すジャブラに近付こうとしたら、待ったと言うように手を前に出してきた。


「なーんかお前、変わったな」
「変わってなどいない」
「丸くなったというか…これも演技か?」
「俺はお前の前で演技をしたことなんてねぇぞ」
「そうか」
「昔みてぇにしてぇだけだ」
「昔?」


 首を傾げて昔を思い出すように瞼を閉じた。俺の記憶の中のお前はいつだってみんなに平等に接していて、特別と言う言葉を知らないのではないかと思うくらいだった。恋心を抱く相手は俺にはあまり理解のできないタイプの女ばかりで、だったらまだカリファに恋をしてくれた方がましだと何度も思ったが、そんな願いが叶うはずもなく5年も離れることになる。


「昔ってなんだよ」
「一緒に、寝たりしたろ」
「あー、おう。したな。なんだお前、一緒に寝たいのか?」
「……」
「だから最近ずっと部屋に来てたのか。でもよぉ、昔はなんの許可もなく布団に潜り込んできただろ?今もそうすりゃいいじゃねぇか」
「…いい大人が無許可で布団に入れるわけねぇだろ」
「まぁ、そうか。お前が急に布団に入ってきたら驚くわな」
「ホントおめぇは馬鹿な犬だな」
「うるせーよ」


 照れているのか頬を掻いたジャブラはそっぽを向いた。そのままベッドに寝転がったので、その上に覆い被さるように俺もベッドに乗った。体を強張らせたジャブラはまだそっぽを向いている。


「お前って、男が好きなのか」
「阿呆か。てめぇだ」
「…そうかそりゃ知らなかった」
「だろうな」


 こめかみに口付けたら俺と向き合うように寝転がって、首に腕を回してきた。ニヤリと笑って力を込めて引き寄せ、俺はジャブラの胸に顔を埋めて寝転がる形になった。心音が心地いい。


「急になんだ」
「気まぐれだ」
「ふん、お前は甘いな」
「甘いのは嫌いか」
「嫌いじゃねぇ」


 心音を聴きながらの会話はなんとも言えない心地よさで、俺を安心させた。それと同時に感じる体温は、昔と変わらず高く、体温の上がった今の俺には少し熱く感じた。



2014/05/19 23:03
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