カナリアが鳴いた
▼愛情表現
(18さいルッチ×25さいジャブラ)


 
 いつものように部屋で寛いでいたら急にルッチが部屋に入ってきていつもの無表情で俺の前に座り込み、頬に触れてから摘まみ、突いたかと思うとその手を耳元へ持って行き耳たぶを弄り始めた。その間も無表情で、呆気にとられている俺の方がおかしいのかと思うほどだった。耳たぶに触れてから手を首元に移動させて、鎖骨を撫でてグッと力を込めて押した。こいつは鎖骨というもが簡単に折れてしまうというのは知っているのだろうか。少しの痛みが走り、やめろ、と言うと力を緩めて俺の左手に触れた。撫でるように一本一本指に触れて行った。無言で無表情で、こいつが何を考えているのか全く分からない。


「お前の手は堅いな」
「女じゃねぇんだ、当たり前だろ」
「それもそうだな」
「熱でもあるのか」
「なぜそう思う」
「こんなことされたら誰だってそう思うぜ」
「そうか」
「どうなんだよ」
「普段と変わりはない」


 普段と変わりはない、そう言ってはいるが行動が普段と違いすぎるのだ。こんな優しい手つきで触れてきたことなんて一度もなかった。きっと、任務中に女を相手にする時に触れる手つきなのだろう。少しだけ、おかしな気分になった。
 ルッチは何かを確かめるような触り方をしているが、気が済み部屋を出て行く様子が一向に見られない。自由に触れさせている俺も俺なのだろうが、普段と違うとどう対処したらいいかわからない。諜報部員のくせに、臨機応変に対応できないなんて情けないにも程がある。これが任務ならまた変わってくるかもしれない、そう思うことにした。仲間の変化に対応できないのは、面倒だとも思った。子供の頃から知っているが、こんな甘えたような行動を取ったことなど一度もないのだ。対応に困るのは当たり前だろう。
 両手で俺の左手を包んでから、口元に持って行き、手の甲に口付けた。さすがに自由にさせすぎただろうか、そう考えあぐねていると視線が絡み合った。上目遣いで見つめるルッチは未だに無表情で、もう少し愛想がよければいいのに、とカクの顔を思い出した。


「なにを考えている」
「カクのこと」
「…こういう時に他の男のことを考えるとはいい度胸をしているな」
「こういう時って言われてもなぁ。よくわかんねぇよ」
「愛情表現だ、ばかめ」
「愛情ってお前…うーん、分かりづらいとも言い切れねぇな」
「優しくすべきだ、と言われた」
「誰にだよ」
「…女だ」
「…へぇ、そう。というよりお前が俺を好きだっていうことに驚きだぜ」


 思ったことを口にしたら少しだけ眉尻を下げて、傷ついたような顔をして見せた。ああ、女は年下のこういう表情に弱いのだろうな、となれもしない女の気持ちになって考えてみた。これは、男前の特権だろう。少しだけ羨ましいと思った。


「言葉にしなくても伝わるとでも思ったのかよ」
「長い付き合いだからな。それに、俺に愛なんて言葉似合わないだろう」
「確かにそうだな。お前なら同意を求める前に無理矢理するだろうしな」
「心外だ」
「女相手にはさすがにそんなことしねぇか」
「お前にだってそんなことする気はない」
「優しいじゃねぇか」
「俺はもともと優しいんだ」


 もう一度、手の甲に口付けられた。それ以上のことはしてこないので、こいつなりに我慢をしているのかもしれない、とも思ったが、そんな素振りは一切見受けられないので、こいつの愛が俺の考えている愛とは少し違うのかもしれない。それでも、齢十八のまだ幼さが残るこの男が愛と言うのならそうなのかもしれない。
 愛なんて知るはずもないってのに、どうして俺たちに人を愛せようか。
 身を乗り出して俺の唇へと触れる、ルッチの厚い唇にそんなことを考えていた。



2014/05/11 22:55
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