カナリアが鳴いた
▼記念日
 記念日と言うものが欲しいと思った。誕生日はあるけれど、それは生まれた日であり、記念日ではない。
 恋人には記念日がつきものだとどこかで聞いた。付き合った日、初めて手を繋いだ日、初めてキスした日、とたくさんあるのだと言う。私からしたら、付き合った日以外は全く重要ではない。初めて手を繋いだ日も、初めてキスした日ももう覚えていない。
 付き合った日が重要とは言ったけれど、付き合った日なんて覚えちゃいないのだ。だから、私には、私たちには記念日がない。


「ブルーノ、私は、記念日が欲しいの」
「記念日?」
「ええ。世の中は記念日と言うもので溢れているのよ?私たちに記念日がないなんておかしいじゃない」
「お前が作りたいなら作ればいいさ」
「あら、協力的じゃないの?」
「まさか。喜んで協力するさ」


 ブルーノの膝に横向きに座って胸に頭を擦りつけていたら足を撫でられた。いやらしいものではなく、とても優しく撫でられた。こういった手つきで撫でられるのは、嫌いじゃない。
 ブルーノは眼鏡を掛けて新聞を読んでいる。その姿は、私の心をとても擽る。


「それで、記念日ってのはどうするんだ?」
「どんな記念日がいいかしら」
「記念日じゃねぇが、お前といる時はいつだって特別な日だぞ?」
「そうね、私もよ。記念日なんて必要ないわね」
「必要ないのか?」
「いつも特別な日だなんて言われたら、記念日なんて必要なくなるわ。一緒にいない日が記念日ね」
「はは、結局、記念日を作ってるじゃねぇか」
「一緒にいないのに記念日っていうのも変な話ね」


 自分の眼鏡を取り、彼の眼鏡を取る。顎を撫で、親指で厚い唇に触れた。ブルーノが屈んで、私が少し姿勢を正して口付けた。
 あんなに望んでいた記念日を、もう欲しいとも思わない。いつだって特別な日だなんて言われたら、望むのだって馬鹿らしいじゃない。



2014/07/02 02:52
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