カナリアが鳴いた
▼初めて

(16さいルッチ×23さいジャブラ)



 長く伸ばされた髪を引っ張り振り向かせて、懇願するような瞳で見上げてくるルッチに、少しだけ困惑した。熱を帯びたそれは、発情期の動物の様にも取れるのを見て、ああ、ついに来てしまったか、と頭の片隅で考え、ため息を吐いた。目元を撫でると嬉しそうに笑った姿にこのままでもいいか、なんて馬鹿なことを考えてしまった。このままでいいわけがないのだ。


「どうした」
「あつい」
「シャワーでも浴びればいいだろ」
「さっき浴びた」
「そうか」
「どうすればいいかわからない」


 人目も憚らず胸元に顔を埋めてくるルッチに、また困惑した。こんな姿、誰かに見せられるわけがない。自室へと連れ帰ろうと思い腕を掴んで歩き出す。よろよろとしながら着いてくるルッチが少し可哀想になり抱えて連れて行くことにした。こっちの方が早い。まだ自分より身長が低いし体重も少ないのでできることだけど、きっとすぐに身長を追い越されてしまうのだろう。今のうちに、堪能しておこう。抱えられなくなることが悲しいのか、と聞かれれば否定をするつもりだが。
 自室に到着して、そこら辺に放って水を掛ける。正気に戻るとは思えないが、少しは利くだろう。


「…なにをする」
「まだ暑いかよ」
「俺の言っていることはそういうことでは、」
「わーってるよ」
「じゃあ!」
「だめだ」
「なぜだ」
「いやいや、初めての相手は女がいいだろ」
「初めてではない」
「発情期きてからは初めてだろ」


 言ってから疑問符が浮かんだ。待て待て、発情期に普通の女を相手させるってのはよくないんじゃないか、と。自分から進めておいて何を言っているのかと咎められそうだ。さて、どうしたものか。
 動物系の悪魔の実を食べると、発情期があると言うのは身をもって知っているが、まさかこいつまでが動物系の悪魔の実を食べるとは思わなかった。食べたと聞いた瞬間からこの日が来て、自分が狙われるというのは分かっていた。こいつのアプローチは露骨すぎるのだ。それについては割愛する。今はそんなことを考えている暇はない。自分から部屋に招いてしまったのだ。


「ジャブラ」
「だめだ」
「それしか言わないじゃねぇか」
「なにを想像してたんだか知らねぇけど、いいって言うと思ってたのかお前は」
「思っていた」
「随分とおめでてぇ頭じゃねぇか」
「あついんだ、ジャブラ」
「本能的なもんだよ。子孫を残すためのな」
「子孫…」
「俺とじゃ子孫は作れねぇだろ」


 寝転がり天井を見ながら何かを考えているルッチを、横目で見やる。こいつが素直にわかったと頷くとは考えられないから、自分はもっと考えを巡らせなければならないのに、あいにくこの頭は考えるのが苦手なせいでいい案が浮かばない。
 天井を見ていたルッチが起き上がり、俺と向き合う。先程よりもすっきりした顔に、諦めてくれたのか、と安心した。


「わかってくれたか」
「いや、わからん」
「おい…」
「我慢はする」
「おお、そりゃいい考えだ」
「だが無理なようだったら相手をしてくれ」
「…まぁ、仕方ねぇな」
「じゃあ、俺は部屋に戻る」


 ニヤリと笑って立ち上がり、部屋から出て行くルッチに嫌な予感がしたが、今更言ったことを取り下げる気にもなれずにその背中を黙って見送った。
 この後俺は、呼び止めなかったことを後悔することになる。




2014/05/14 21:46
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