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カナリアが鳴いた
▼乙女心
「あなたって乙女心がわかっていないのね」店に来た客が言った言葉に、一瞬だけ眉間に皺が寄った。この女が誰かも知らなければ、この女の為に自分の知っている乙女心というものを披露する気など更々無いのだ。
カラン、とドアベルが鳴り、金髪の美女が入ってきた。美女はカウンターに座り、酒を頼むとにこりと笑いかける。先程、俺に乙女心がわかっていないと言った女が、妬むような視線を向けている。
「今日は遅いじゃねぇか」
「仕事がたくさんあるのよ。秘書ってのも大変だわ」
「おめぇに似合ってる」
「ふふ、ありがとう」
そんな会話を繰り広げていたら、先程の女が一気にグラスを煽り、思い切りカウンターに叩きつけて、金を置いて出て行った。女心も乙女心も、俺がわかるわけがないのだ。
「なんなの、今の客。嫌な感じね」
「乙女心がわかってねぇって言われたよ」
「あら、失礼ね」
「たまったもんじゃねぇよ」
「ふふ」
「けど、運よく美女が店に来てくれたからな」
「あら、私のことかしら」
「ああ。お前以外にいないだろう」
髪を掻き上げる仕草も、グラスに残った口紅も、男心を擽るには十分だ。先に合うとは思えないが、昼に安売りしていた飴玉をカウンターに出した。
「あら、かわいいわね」
「酒には合わねぇだろうがな」
「いいわよ。あなたが用意してくれたんだもの」
「おめぇは俺を喜ばすのがうまいな」
「ええ。そりゃあもう。あなたは乙女心なんて理解しなくていいのよ。私の心だけ理解していればいいの」
「そう言ってもらえたら気が楽だな」
飴玉を口の中で転がす彼女の髪を、そっと撫でた。先程の女の言葉が頭の中に浮かんだが、カリファがこう言うのだから、もう関係はないだろう。もうこの店には来ないことを願う。
2014/06/16 01:44