カナリアが鳴いた
▼ふたりだけ
 二人で毛布に包まって寄り添い合い、窓から見える大きな月と星空を見ながら、温かいコーヒーを飲むのが情事のあとの決まり事になっている。彼の太い腕に自分の頭を押し付けると、ふふ、と笑う。その振動が伝わってきて、私もクスリと笑った。
 彼の骨ばった指に自分の指を絡めて撫でると、それに応えるように私の指の股を撫でた。その行為を厭らしく感じるのは、先ほどの行為を思い出すからだろう。頬に熱が宿るのがわかった。急な体温上昇に気付いたのか、また、彼は笑った。


「寒くないか」
「平気よ。こんなにくっついているんだもの」
「はは、違いねぇ」


 私の指の腹を撫でていた彼の指が不意に止まって、ギュッと強く握った。それはパズルが嵌るようにガッチリと、元から一つのものだったように、綺麗に収まった。彼の体温が私に伝わり、私の体温が彼に伝わる。
 彼を感じる最高の手段は、裸になって抱き合うことだ。
 昔から彼のことが好きだった。私にとってそれは初恋という甘くて切ないもので、想っていた時は楽しささえ感じていたのに、いざ行動に移そうとするとどうにも上手くいかなかった。現に、私は彼に何度もフラれている。彼に想いを告げたとき、私のことを妹としてしか見ることが出来ないと言ったのだ。私はそれが悔しくて、その日は泣き通した。ジャブラが心配して部屋まで訪ねてきたけれど、その優しさが私を惨めにしているような気がして悪態をついてしまったのを、とても申し訳ないと思っている。
 何度も何度も彼にアタックしては玉砕して、恋人という地位を手に入れたのはウォーターセブンに来てからだった。
 そんなことに現を抜かしている場合ではないと、一度カクに言われたことがあったが、私にだって人生がある。それに、仕事を疎かにしているわけではなかった。カクだってそれをわかっているはずなのに注意をしてくるのだ。こんなことを言うと、カクが私に特別な感情を持っているように聞こえるが、そうではない。二つしか差のない年齢に、一緒くたにされた幼少時代のことを思い出すと、姉のように慕っていると考えるのが妥当だ。私も、カクを弟のようだと思っている。
 体を繋げる関係になったのだって、ごく最近のことだ。お互いに忙しいというのもあったが、彼が私に手を出して来なかった。いつまでも子供だと思っていたら大間違いだ。私が行動を起こしたのは、今日のように大きな月が出て、星がキラキラと綺麗に輝く夜だった。
 彼の部屋に忍び込み、シャワーを浴びて帰りを待った。
 窓から降り注ぐ月の明かりに照らされた私は、綺麗に見えるはずだ。
 カギの開く音、ノブを回す音、ドアを開く音、全てが耳に焼き付いて残っている。ドアを開いた瞬間の、驚いた表情だって忘れることが出来ない。
 そのあとの、参った、と言って右手で両目を覆った姿には、呆れられたかと心配になった。けれども、彼は少し待ってろ、と言って浴室へと向かい、数分後には体を清めて出てきた。水に濡れた髪にドキリと胸が高鳴った。触れた手から伝わる熱に火傷してしまうかと思った。
 その日から、事が済むと、あの日を思い出すように窓に向かって寄り添い、彼の淹れた温かいコーヒーを飲むのが、私の楽しみだ。
 誰にも邪魔されず、ふたりだけになれる、この時だけが私の心を癒してくる。



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2014/04/22 23:43
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