歩くことの出来ないシオフキーに鎖をつけて部屋に閉じ込めた。そんなことしなくても歩けないのだから逃げることは不可能だとわかっている。こんなのただの気休めだ。


「お前は本当に馬鹿だな。」


蔑むような眼で見られる。それなのに口は弧を描いていて笑えてくる。さすがヒールだ。
シオフキーが動く度にじゃらんと鎖が音を立てる。
その音が鳴る度に私の胸は激しく高鳴るのだ。

これを恋と呼ばずと、なんと呼ぼうか。


シオフキーに近づいて床に膝をつける。目線を合わせようとしたら、シオフキーはそっと瞼を閉じた。
この先に進めばもう元の道には戻れない。戻ったところで、私にはもう何も無いのだから。


『私と一緒にいたいなら全てを捨ててこい』


私は全てを捨ててこの場にいるはずなのに、今までの楽しかった思い出が、辛い思い出が、悲しい思い出が走馬灯のように駆け巡る。


「お前は、全てを捨て切れなかったようだな。まだ引き返せるから戻ればいい。私には何も無いが、お前にはたくさんのものがあるじゃないか」


小さな子供に言い聞かせるように優しく言葉を紡ぐシオフキーは、私の頬に触れて苦笑いをした。
カシャン、と大きな音がして今までシオフキーを繋いでいた鎖が床に落ちた。
赤くなった手首をさすりながら白衣のポケットから何かを探し出して、自分を囲むように円を描いた。


「コワルスキー、サヨナラだ」


そう言った瞬間に床が抜け落ちてシオフキーも落ちていった。慌てて手を伸ばすけれど掠りもしなかった。私は追い飛ぶ気にもなれずその場に膝から崩れ落ちた。

お前の言った「サヨナラ」は今生の別れの言葉か?また会うことはできるのか?問いかけても答えてくれる者はもうこの場にはいない。




海で心中



2013/04/28 05:01





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