独特な車内の匂いはあまり好きではないけど、この同僚の車の匂いはそれほど嫌いではないと。特に芳香剤を置いているわけでもなく、何ならこの男は煙草も吸うのに私の嗅覚はそれほど嫌だと感じた事はなかった。そんなどうでもいい事をボーッと考えている私の唇にはその同僚の唇の体温が乗っている。
 男に家まで送ってもらってそのまま、なんて幾度か経験はあるけど。この男に限ってそれは無いだろうと思ってはいたが、ああこの男も他の男と同じなのかと唇に残る体温を感じながらそんな事を思う。

「えーっと、家、上がる?」
「すまない」

 ほぼ同時に言葉が重なる。すでに前を向いて、車の発進の準備をしていた赤井は助手席へとゆっくり顔を向けた。

「慣れてるのか?」
「人よりは多い方かも。……いいよ、別に家上がってっても」
「魔が指しただけだ、すまなかった」
「嫌じゃなかったから大丈夫。じゃあ、送ってくれてありがとう。お疲れ様」
「ああ、お疲れ。また明日」
「うん、また明日」

 車を降りれば、すぐに車は発進し角に曲がって見えなくなる。少しだけ、ほんの少しだけ明日どう顔を合わせればいいのかな、なんてそんなくすぐったくなるような気持ちが過ぎっていった。


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