今日は上杉と一緒に張り込みの仕事だった。数日かかると思っていた仕事だったが、案外あっさりと解決。犯人も無事に捕まり、夕方くらいには仕事を終えた。
 夜に時間が出来たので、この間約束を取り付けた食事に行く事になったのだ。俺の車で移動していたので、現場からそのまま直行することに。特に上杉からのリクエストもなかったので、俺の行きつけの店へと車を走らせていた。
 今回、食事に誘ってわかったことは上杉の好きな食べ物や趣味、私生活において俺は何も知らないという事だ。仕事でこれだけ一緒の時間を過ごしているにも関わらず会話も業務内容ばかり。これだと食事に行って何を話題にすればいいのやら。いや、逆に何も知らないのだからここらでリサーチをかけておくのもいいだろう。そんな事を一人考えながら、ハンドルを握る。
 ふと助手席が静かだと思い隣を見れば、上杉はぐっすりと寝てしまっていた。仕方ないだろう。今日のために睡眠時間を削り準備をして、なおかつ今日は早朝に集合だったのだ。
 この信号を渡って、左に曲がれば店に着いてしまう。しかし、この寝顔を見てしまったらとても起こす気にはなれない。腹は減っているが適当に済ませてしまえばいいかと左に曲がり、店前を通り過ぎる。そして、Uターンをした。
 外は綺麗なオレンジ色の夕焼け。ここ最近忙しすぎて、周りの景色を楽しむ余裕などなかった。……海沿いに出て、沈んでいく夕日を眺めるのもいいだろう。その間に上杉が起きるのかどうかは定かではないが。途中コンビニへ寄り、自分のご飯と上杉のご飯を適当に選ぶ。
 ……そういえば、上杉はよくレモンティーを飲んでいたな。色とりどりの飲み物がずらりと並ぶショーケースの前でいつも上杉が手元に持っている事を唐突に思い出し、それもかごに追加した。
 再度車を走らせ、海辺の駐車場へと車を停めた。相変わらず起きない上杉を横目に一人運転席でコンビニ飯を開ける。フロントガラス越しに夕日が水平線に沈んでいくのを眺める。こんな静かでゆっくりしている時間は本当にいつぶりか。いつもと変わらないコンビニ飯も今日はなぜかおいしく感じてしまう。
 ご飯を食べ終わり、夕日も沈みかけ。食後の煙草を加えてなんとなく上杉の寝顔を眺める。よく考えれば好きな女性が隣で寝ているなんてかなりなシチュエーションなのではと今更ながら気づいてしまう。よく見れば長いまつげに、白い肌。年の割に幼い顔立ちに柔らかそうな頬。
 ……俺も男だな。そう気づいてしまえば胸の内がザワザワと音を立て始める。ダメだとわかっていながら、吸いかけの煙草を灰皿に押しつけて、上杉の方へと身を乗り出した瞬間だった。

「ん……あれ、私寝て……」

 起きて横を向いた上杉と俺の距離はほぼ無くて。一瞬時が止まったように感じたが、俺は何事もなかったかのように、席へと座り直した。

「赤井さん? 今、何か近くなかったですか?」
「……起こそうとしたら起きただけだ。よく寝ていたな」
「すみません。……そういえば、ご飯!」
「コンビニで適当に買ってある」
「えっ? お店は?」
「夕日が綺麗だったんで、それを見ながら食べようかと」
「ほんとだ、よく見ればここ海ですね。夕日沈んじゃいましたけど」

 そういって辺りを見回した上杉のお腹の音が聞こえる。恥ずかしそうに俺から視線を逸らした上杉にコンビニの袋を渡した。

「ありがとうございます」

 さっそくレモンティーへと手を伸ばした上杉は動きを止めてしまった。俺はその様子に「好きだったよな? レモンティー」と聞けば、「好きは、好き、なんですけど」と歯切れの悪い上杉。

「ラプトン派なんですよね。これ、午前ティー」

 黄色い背景に白いティーカップが描かれたラベルをこちらに見せられる。よく考えればいつも紙パックの方を飲んでいたような。手元に黄色の飲み物という事しか俺は記憶していなかったようだ。

「すまない。次から気をつける」

 自分で言っておいて、次があるのかと心の内で思わず突っ込みを入れてしまう。上杉は可愛らしく笑って「でも、嬉しいです。覚えていてくれて。そういえばおいくらでした?」と財布を出そうと鞄を開ける。

「いい。俺のおごりだ」
「でも、」
「素直に奢られておけ」
「……では、お言葉に甘えて」

 丁寧にお辞儀をした上杉はその小さい口で小動物のようにご飯を頬張りだす。すると上杉が急にこちらを横目で見てきた。

「あの、そんなに見られてると食べずらいのですが……」
「おいしそうに食べるな、と」
「だから恥ずかしいですって。そうだ、次は赤井さんオススメのお店必ず連れてってくださいね。その時はちゃんと起こしてくださいよ」
「わかった」

 「絶対ですよ!」と箸を持ち直して、またご飯を食べ始めた上杉。そのくるくると変わる表情に、絶対に他のヤツに渡すものかと気持ちが膨れ上がるばかりだった。


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