今日は部下の上杉を他の奴に貸して欲しいと言われ、上杉を貸し出し中。なので、いつも上杉が片付けてくれるデスクワークの仕事を自分で片付けなければいけないのだがなかなか集中する事が出来なくて、煙草の本数は増えていくばかりだ。
 何本目になるかわからない煙草に火をつけて再びPCに集中し始めると、事務所のドアが開いた。

「ういちゃん、今日はありがとね」
「いえいえ、こちらこそ。それにご飯代ほんとに良かったんですか?」
「いいの、いいの。慣れてない現場で頑張ってくれたんだからこのくらい……」

 入ってきたのは上杉と上杉を借りていった同期の男だった。作業していた手を止め、背もたれに背中を預けて煙草を吸いながらそちらを見ていたら男と目が合った。男は一瞬固まった表情を見せて上杉に「っていう事だから。また何かあったらよろしく」と早口にまくしたてる。上杉は突然話しを切った男の様子に少し首を捻ってる様にも見えたがすぐ愛想よく「はい、また声かけてください。では、私資料室行きたいので、また」と事務所を出て行ってしまった。「うん、また」と上杉と別れた男はその足でそのまま俺の元にやってくる。

「赤井、目が怖いぞ」
「何を言ってるかわからないな。……それでウチの部下は少しは役に立てたのかな?」
「ああ。やっぱり赤井の部下なだけあってかなり優秀だな。……それと」

 いきなり俺の耳元まで屈んだ男は、声を潜めながら「ういちゃん狙ってる奴かなり多いぞ。今日現場に一緒にいた俺の部下達なんかメロメロの鼻の下のびまくりだったしな」と俺の肩を二度軽く叩く。

「それは置いておくとして。それは仕事になってたのか?」
「いつもより男どもはやる気になってたよ。やっぱ華があるのとないのじゃ違うな」
「……それなら良かった」

 「また何かあったらういちゃんの力貸してもらうわ」と男は事務所を出て行った。それと交代で分厚いファイルを三冊抱えた上杉が入ってきて、俺の隣へとやってくる。

「ただいま戻りました」
「ご苦労だったな」

 自分でも驚くほど冷たい声が出てしまう。それに不思議な顔をした上杉だが、何も言う事はなく隣の椅子に座ったが何か考えるように動きを止めた後「何かありましたか?」と聞かれてしまった。

「別に何でも無い」
「……なら、いいんですけど。報告書とかどこら辺まで終わりましたか? 私も明日から現場続くので今日中にやれるのは終わらせておきたいんですよね」

 PCのフォルダを見せながら「あと二、三で終わる」と伝えると、「わかりました」とすぐPCに向き合う上杉。

「……何ですか? 赤井さん? そんな見られてると仕事しづらいんですけど」

 自分でも無意識のうちに上杉を凝視していたようで、すぐに視線をPCへと戻す。「すまない」と謝ったものの何となく居心地が悪くなってしまい、先ほど男が上杉とご飯に行った事がどうしても引っかかっていた俺は思わず「今度飯でも一緒に行くか」と言ってしまった。

 キーボードを叩いていた音が止み、こちらを見た上杉。「やっぱ今日の赤井さん変ですね。普段そんな事言わないじゃないですか」と首を傾げられてしまう。

「たまにはいいんじゃないか」
「上司命令ですか?」
「嫌ならいいんだぞ」
「嫌なんて言ってないじゃないですか。いいですよ、行きましょう。いつになるかわからないですけど……」

 そう微かに笑った上杉はすぐにPCの画面に集中し始める。
 相手にされていないのはわかっているが他の奴に渡す気なんてさらさらなくて。上司という立場を利用して上杉を独占している気になっている自分に呆れるしかなかった。


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