玄関が開いた音が聞こえた。そのまま扉を開けた主は自分の部屋へと入っていってしまう。

「おい、ただいまくらい言ったらどうだ」

 リビングにいた高杉の声も無視。高校二年生。難しい年頃の子どもを預かっていることに高杉は頭を悩ませていた。
 ただ構いすぎても良くないと目の前のテレビに意識を移す。しばらくするとういがリビングへと顔を出してきた。

「おかえり」

 再び高杉は挨拶をするが、やはらういは無視。冷蔵庫を開け飲み物を取るとまた自室に戻ろうとリビングの扉に手をかけたういに高杉はまた声をかけた。

「うい」

 ういは一瞬、高杉の声に反応して動きを止めるがやはりドアノブを下ろしてリビングを出ていってしまった。高杉は頭を抱える。
 親戚の親から高校に入り上手くいかなくなって塞ぎ込んでしまった娘を高校の養護教諭である高杉に何とかして欲しいと言われ、とりあえず請け負ったものの思っていたより手強かった。それもそうだろう。高校二年生といえば、いろいろある年だ。きっと本人は自分でもよくわからない苦しみに悩んでいるのだろう。
 高杉が時計を見ればそろそろ夕飯の時間。思えば、この夕方の時間にういが帰ってきた事自体が珍しい。一応夕飯の食材は二人分買ってある。高杉は立ち上がり、ういの部屋の前へ行きノックをする。

「夕飯食べるか? 作るけど」

 扉が少しだけ開きそこから顔を覗かせたういはそっぽを向きながら小さな声で「食べる」と答える。高杉は「わかった」と短く答え、キッチンに戻った。

 漂ういい匂いにお腹のすき具合が限界だったのかういはリビングへと現れた。黙って飲み物やお箸を準備をするあたり根はとても優しい子なのだろう。高杉が「ありがとな」とお礼を言うがういは無言のまま食卓についた。

 テレビの音だけが流れるリビングにういが食器を洗う音が響く。料理を作ってくれたお礼と率先してういが片付けをしてくれているのだ。

「なぁ、うい」
「んー?」

 機嫌がいいのか期待をしていなかった返事に少し高杉は戸惑いながらも「俺の家に来て四ヶ月くらい経ったが気分転換にはなってるか?」と聞いた。そもそも高校二年生の女の子があまり知りもしない親戚の男の一人暮らしの家に来ると決断するのも中々のものだよなと高杉は思う。

「……わからないけど、家にいるよりかはいいのかも」

 洗い物を終えたういはすぐにリビングを出ていってしまう。高杉はまぁ、まだまだこれからだよなと薄く笑った。


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